フコキサンチン(Fx)は褐藻類に特有のカロテノイド色素であり、肥満や糖尿病などの予防・改善に役立つ分子として培養細胞や動物レベルでの効果が多く報告されている。一方でヒトを対象とした研究はほとんどなく、日本人に対する効果は不明であった。申請者らの先行研究では、健常な日本人成人男女への8週間のFx2mg投与がヘモグロビンA1c(HbA1c)を低下させることを見出した。特にこの低下は肥満や糖尿病の発症リスクが高いとされるUCP1‐3826A/G遺伝子のG/G型保有者で顕著であった。この知見よりFx投与はテーラーメイドな糖尿病予防に役立つと考えられるため、本研究では将来糖尿病を発症するリスクの高い耐糖能低下者(糖尿病予備軍)をターゲットとし、UCP1遺伝子多型におけるFxのHbA1c改善効果を検証した。 先行研究の効果量、標準偏差、G/G型保有率からサンプルサイズを見積り、120名を研究参加者とした。参加者は無作為にプラセボ又はFx(2mg/日)のいずれかの群に割り付けられ、各成分を含むカプセルを8週間摂取した。摂取後、Fx群の血中においてFx代謝物であるフコキサンチノールが検出されたため、カプセル成分の生体内への取り込みが確認できた。HbA1cにおいてはその変化量をプラセボとFx両群でUCP1遺伝子型別に比較すると、遺伝子型間に有意な差はみられなかった。また、HbA1cと並んで血糖コントロールの指標であるグリコアルブミンにおいても同様に差はなかった。これらの結果は先行研究での改善効果とは一致しなかった。 先行研究と本研究では、(1)対象集団(健常者と耐糖能低下者)のHbA1c値の分布、(2)試験実施時期(外気温)が異なっていたことから、これらの要因がUCP1遺伝子多型におけるFxの糖代謝改善作用発現に関与したことが推察され、作用メカニズムを解明する上で重要な知見となると考えられた。
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