研究課題/領域番号 |
16K21265
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
諸岡 聡 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, 研究職 (10534422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄鋼 / 軟質分散Cu粒子 / 析出 / 分解 / 放射光X線小角散乱 / 放射光X線回折 |
研究実績の概要 |
本年度は、大型施設で実施する放射光散乱測定に最適な試料を作製すること、さらに作製した試料に予ひずみを与えた試料ついて、軟質分散Cu粒子の変形挙動を観測することを目標とした。試料は、フェライトを基地組織とし、熱処理により容易に粒子のサイズ・分布・形態・数密度を変化させることができるFe-2Cu合金 (mass%)と、Cu粒子と転位の相互作用を観察しやすくするため、鋼の積層欠陥エネルギーを低下させることで、規則的な線欠陥(転位)運動を生じるFe-2.06Cu-2.5Si合金を作製した。初期のミクロ組織は、900℃で溶体化処理した後、急冷し、フェライト単相組織にした後、600℃で任意の時間、時効処理することで、測定に最適なCu粒子のサイズおよび体積率へ調整した。軟質分散Cu粒子の変形挙動の観測は、放射光X線小角散乱測定および放射光X線回折によって、基地組織の塑性変形によるCu粒子の組織因子の変化を観測した。得られた知見としては、基地組織の塑性変形量の増加に伴い、Cu粒子の形態が球状から針状へ変化することで、粒子サイズが増加し、数密度が減少することを定量化することに成功した。総合的に考えると、基地組織の塑性変形量の増加に伴い、Cu粒子の体積率は減少する結果となる。これは、放射光X線回折により測定したCu粒子の回折線の積分強度の変化からも妥当であると実験的に示した。本成果内容については、(一社)日本鉄鋼協会の講演大会で発表した。一方で、放射光X線回折により高角度領域まで測定した結果を結晶PDF(atomic pair distribution function)解析することで得られる原子の局所構造情報からCu粒子と転位の相互作用を観察する新たな手法の検討も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実験は概ね着手しており、データも順調に取得できている。特に、基地組織を塑性変形した際のCu粒子の体積率評価においては、放射光X線回折を用いることで、強加工鋼においても体積率を定量化することでき、従来報告されていない新規的な成果も得られている。ただし、放射光X線小角散乱を用いたその場測定においては、0.05mmの試料厚さで帯状の試験片を作製する点や塑性ひずみ量が小となることによる定量化の困難さが露呈した。それが成功すれば、本研究の課題の最大目標を達することになるが、1年間の研究期間で問題点に着手できた点は評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の研究成果の検証のために、様々なスケールでのミクロ組織観察が必要であることがわかった。また、上記に述べた各実験で得られたデータに対して、プロファイル解析および計算シミュレーションを取り入れる。特に今年度は、①放射光X線小角散乱を用いたその場引張試験によるCu粒子の変形挙動調査、②透過型電子顕微鏡および3次元アトムプローブを用いたナノスケールのミクロ組織観察によるCu粒子の変形挙動調査、③結晶PDF(atomic pair distribution function)解析を用いた原子の局所構造情報からCu粒子と転位の相互作用を観察を主な課題として研究を進める予定である。
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