研究課題
最終年度となるH29年度には、中性子回折法によるその場測定を用いてCu粒子を含む鋼と、VC粒子を含む鋼の転位挙動観測を試みた。中性子回折法により得られた塑性変形に伴う回折プロファイルの半価幅(FWHM)の変化から、母相の転位挙動を予測することに成功した。その結果、同一の塑性ひずみであっても、粒子の性質により、母相中の転位堆積挙動が異なることを明らかにした。一方、析出粒子自身の塑性変形挙動の評価ついても、同手法での観測を試みた。当初、鋼中のわずか数%の析出粒子の回折線を検出することは不可能であると予測していたが、J-PARC MLFの高ビーム出力と工学材料回折装置「匠」の高S/N分解能により、析出粒子の回折線を検出することに成功した。その結果、VC粒子(ヤング率436GPa)は、破断領域まで弾性変形を維持することを明らかにした。一方、Cu粒子(ヤング率130GPa)は、塑性変形の進行に伴い、回折強度の検出限界を超えたため、観測できなくなったが、VC粒子の変形挙動と比較することで、転位による切断機構によりCu粒子が再固溶した可能性が示唆された。そこで、塑性変形の進行に伴い、回折強度が低下することを踏まえて、鋼中のCu粒子体積率を2倍に増加して、同一試験を試みた。その結果、Cu粒子の変形挙動観測にも成功し、母相よりも変形しやすいCu粒子もVC粒子と同様に、高い応力を担っていることを初めて明らかにした。これは、Cu粒子がナノサイズであり、粒内に結晶粒界が存在しないこと(単結晶)により、転位源密度が非常に少なくなったことで発現した変形挙動であると示唆された。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Applied Crystallography
巻: 50 ページ: 334-339
https://doi.org/10.1107/S1600576717000279