研究課題/領域番号 |
16K21276
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
水野 初 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (30457288)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタボロミクス / ミトコンドリア / 誘導体化 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
細胞内に存在する様々なオルガネラ中の代謝物を正確に分析するために、オルガネラ選択的に取込まれ、オルガネラ内に存在する代謝物の誘導体化をオルガネラ内で行い、誘導体化された代謝物のみを選択的に質量分析することができれば、代謝物の細胞内局在情報を得ることができる。前年度までの研究で、細胞内部に移行する際に目的とするオルガネラ以外での誘導体化反応の進行を防ぐため、誘導体化反応のon/offをコントロールすることができる光反応を誘導体化に用いた。光反応基については、UVに比べて細胞への影響が低いUVAにより反応が進行し、比較的反応収率が良いとされるジアジリンを用いることとした。本年度の研究では、細胞活動の中心的な役割を担っているミトコンドリアに存在する代謝物を分析するために、ミトコンドリア選択的局在誘導体化試薬の合成及びその性能評価を行った。ミトコンドリア認識部位としてローダミンを用い、これに光反応基であるジアジリンを結合したミトコンドリア局在型光反応プローブを合成した。このプローブを培養細胞に投与し、蛍光顕微鏡で観察したところ、プローブが細胞内に移行してミトコンドリア選択的に局在していることが確認できた。 また、細胞内の微量代謝物を高感度かつ高精度に質量分析するために、エレクトロスプレーイオン化の際のフラグメント化メカニズムの解明や、夾雑イオンの影響によるイオン化効率のばらつきを網羅的に補正するための方法などの質量分析基盤技術の開発を行い、学会発表および論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、細胞内の小器官に存在する代謝物を特異的に誘導体化することができる誘導体試薬の合成を行った。今年度はミトコンドリアに存在する代謝物を検出するために、細胞内のミトコンドリアに選択的に取り込まれ、光を照射することによりミトコンドリア内に存在する代謝物を誘導体化させる、ミトコンドリア局在型光アフィニティープローブを合成した。ミトコンドリアは生命現象の発現や維持に重要な器官であり、糖代謝やTCAなどの重要な代謝経路が存在するほか、脂質などについても他の器官と組成が異なることなども報告されている。そのため、ミトコンドリアの代謝物局在を正確に分析することは細胞現象メカニズムを解明するうえで重要であると考え、本研究のターゲットオルガネラとすることとした。 合成した光アフィニティープローブと代謝物との反応については、反応溶液から原料と目的反応生成物を高効率で分けるための分離精製条件の検討に時間を要してしまい、実際の細胞代謝物との光反応について詳細な条件検討が完了していない。また、合成したプローブの投与や光照射に対する細胞への生物学的影響について確認を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で合成したミトコンドリア局在型光アフィニティープローブを細胞内のミトコンドリアに取り込ませ、細胞内のミトコンドリアのどの部分に局在しているかについて、レーザー共焦点顕微鏡により確認する。また、細胞内ミトコンドリアに取り込まれた本光アフィニティープローブと代謝物の光反応条件の検討を行う。このために、細胞へ投与する濃度・インキュベーション時間などの投与条件の検討や、光の照射時間・条件などを検討し、細胞への影響を最小限に抑えかつ効果的に誘導体化するための条件を決定する。次に、光反応により誘導体化されたミトコンドリア代謝物を検出するために、誘導体化プローブを選択的にトラップして質量分析するための前処理方法の開発を引き続き行う。また、細胞抽出液をLC-MS/MS分析する際に、ローダミンなどの誘導体化試薬特徴的なフラグメントイオンを確認し、誘導体化代謝物を選択的に検出することができる解析方法を確立させる。さらに、ミトコンドリア認識部位の官能基を変更し、細胞内のミトコンドリア以外の部位に移行するプローブの開発も同時に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に生じた余剰分は少額であるので30年度の予算使用計画自体の変更は無いが、物品の値上げや消費税分の支払いに使用する予定である。
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