α-シヌクレインはパーキンソン病の病理所見であるレビー小体の主要構成分子である。レビー小体の形成領域は病気の進行に伴って下部脳幹から大脳皮質に向かって上向性に広がって行く。近年、この病変の拡大には、高分子化した病原性α-シヌクレイン“Seed”が神経細胞間を伝播することが重要であるとの報告が蓄積されてきた。しかしながら、細胞間を伝播するSeed分子の構造やその性質については未だ不明な点が多い。本研究では、Seedの性質とその産生メカニズムについて解析を行った。 過去の報告により、精製した単量体α-シヌクレインを人工的に試験管内で重合させ、高分子化させた線維様α-シヌクレイン“Fibril”を含む培地で神経細胞を培養すると、レビー小体様凝集体が形成されること、更に、マウス黒質、あるいは線条体にこれを投与することによって凝集体の形成が脳内各所、及び大脳皮質にまで伝播することが明らかとなっている。本研究では、Fibrilを調製し、これを出発材料として生化学分画を行い、Fibrilから二次的に産生されるα-シヌクレインオリゴマー画分を回収した。各画分には多様な分子種が含まれており、培養神経細胞内にレビー小体様凝集体の形成を誘導できることを確認した。 Fibrilに由来する様々なα-シヌクレインオリゴマー構造を分離した後、レビー小体様凝集体を有する病的神経細胞が産生するSeed構造を明らかにするため、病的神経細胞を一定期間培養した培地中に含まれる高分子化α-シヌクレインの分離・同定とその性質について解析を行った。その結果、当該培養液中にはある特定の分子量を有するα-シヌクレインオリゴマーが含まれていること、更に、この分子構造がレビー小体様凝集体の形成を誘導できることを明らかにした。本研究結果は、病的神経が自ら産生するSeed分子の同定に繋がるものと期待される。
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