研究課題
本研究では、多発性硬化症(以下MS)の疾患修飾薬のうち、fingolimod治療下および治療中の再発期において、末梢血中で増加しているCD56+T細胞のフェノタイプや機能的特徴、発現亢進の機序を明らかにし、同細胞群頻度と再発及び治療効果との関連性について解析することを目的としている。昨年までの研究において、T細胞上のCD56発現は、CD4+T細胞ならびCD8+T細胞、またT細胞のCCR7の発現の有無や免疫記憶の状態にかかわらず、種々のT細胞サブセットにおいて認められていた。また、CD56+T細胞は細胞障害性分子の発現頻度ならびにIFN-β産生細胞頻度の高い細胞群であり、myelin basic protein反応性IFN-γ産生細胞がCD56-T細胞と比較してより高頻度に含まれていた。本年度は、in vitroにおいてT細胞にCD56発現が亢進する刺激条件を検索した。既報の通り、PHA刺激によりT細胞上のCD56の発現増加は認められたが、fingolimodならびにその活性体であるリン酸化フィンゴリモドを添加した場合には、発現増加は認められなかった。このことより、fingolimod治療下において末梢血中で増加しているCD56+T細胞は、fingolimodおよびリン酸化fingolimod自体のT細胞への直接的な作用によるものではなく、生体内での免疫環境の変化に基づいて発現が亢進しているものと推察した。また、fingolimod治療症例の追跡では、再発期に増加したCD56+T細胞が、寛解期には数ヶ月かけて徐々に低下する傾向にはあるものの、依然として非再発症例と比較すると同細胞頻度は高い傾向にあることが認められた。しかしながら、本研究期間での追跡症例数は少なく、CD56+T細胞頻度をバイオマーカーとして臨床応用するためには、今後さらなる症例の蓄積等が必要である。
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