最終年度では,メタン発酵に用いるバイオマスの種類とノリ色調回復の関連性を調査した。さらに,これまでの成果を鑑みた実現可能性評価を行い,ノリ漁場にメタン発酵残渣を用いることを想定し,環境面・経済面の効果検証や課題の抽出を行った。 アオサ由来と野菜由来のメタン発酵残渣および人工海水を添加したノリ培養実験において,アオサ由来,野菜由来,人工海水の順に色調回復がみられた。これらのことから,投入するバイオマスによって効果の度合いが異なっており,特にアオサ由来のメタン発酵残渣が効果的であることがわかった。 実現可能性評価では,日量10トンの処理を行う小規模型のメタン発酵システム(20年間)を想定し,メタン発酵残渣の利用の有無,利用割合を変化させ,環境面・経済面への影響を調査した。環境面・経済面の効果としては,メタン発酵残渣のノリ漁場への施肥に伴う発酵残渣の水処理・施肥に用いる化学肥料の削減が挙げられる。低炭素効果の観点では,メタン発酵によるエネルギー生産に比べかなり小さい効果となった。一方,経済面では,発酵残渣の65%以上を利用することで,システム全体として支出を上回る収入が得られることがわかった。さらに,水処理の削減費用として数百万円,色落ちノリの焼却費用の削減効果として数百万から数千万円の効果が見込めることが明らかになった。 これまでの成果を踏まえ,メタン発酵残渣が閉鎖性海域における栄養塩偏在の解消にとって,重要な役割を担う可能性が示唆された。さらに,海を介した物質循環を促す効果も期待できる。アオサ由来の残渣が色調回復に効果的であることは予想していなかった知見であり,重金属のリスクと併せて今後の継続研究で詳しく取り組む予定である。
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