本年度は、生きている哺乳類細胞膜上に発現しているニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の分子内運動をX線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking; DXT)を用いて計測し、リガンド依存的な分子内運動の解析を行った。 DXTでは、測定試料を基板に結合させ、分子内運動を計測する分子に金属ナノ結晶標識を行う必要がある。そこでまず、基板とするカプトン膜上で哺乳類細胞を接着培養する検討を行ったところ、厚さ7.5μmの非常に薄いカプトン膜でも良好に細胞を接着培養できることが分かった。薄いカプトン膜上で培養できることにより、測定時のノイズを減らすことができる。また、細胞膜上で発現しているnAChRを金属ナノ結晶標識するために、抗nAChR抗体のFab’フラグメントを作製して金ナノ結晶に結合させ、細胞膜上のnAChRを特異的に標識するための検討を行った。塩化カリウム単結晶上で作製された金ナノ結晶は非常に凝集しやすいが、クエン酸ナトリウムとポリエチレングリコール処理を行うことによって分散性を向上させられることが、透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いた観察により明らかになった。また、X線1分子追跡法では、試料にX線を照射する必要がある。高いシグナルを得るためには高輝度の白色X線照射が効果的であるが、強いX線を照射すると細胞にダメージを与えてしまう可能性がある。そこで、nAChRを金ナノ結晶で標識した培養細胞に、白色X線を照射した後、細胞を光学顕微鏡で観察し、細胞に対するダメージのないX線照射条件を調べた。そして、nAChRのアゴニストであるアセチルコリン、カルバミルコリン、アンタゴニストであるαブンガロトキシン存在下で測定を行い、解析した結果、リガンド依存的なnAChRの回転運動を捉えることができた。
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