膝前十字靱帯損傷は最も頻度の高いスポーツ外傷のひとつであり、一部にポリエチレンテレフタレート繊維人工靭帯を用いた再建術が行われている。靭帯再建術においては移植材料と骨孔との早期固着が必要であり、整形外科・スポーツ医学分野において重要な課題である。人工靭帯そのものには骨伝導能、骨形成能はなく、それらをを高めるにはハイドロキシアパタイトなどの材料表面へのコーティング技術が期待される。しかし、これまでポリエチレンテレフタレートのような耐熱性の低い材料へのコーティングは困難であった。さらに人工靭帯など複雑な形状をした材料へは表面への薄く均一なコーティングが求められる。 骨細胞外基質の主要構成成分であるハイドロキシアパタイトは、カルシウムとリン酸で構成され、カルシウムをストロンチウムに置換、リン酸イオンを炭酸イオンやケイ酸イオンに置換することが可能である。これまでストロンロンチウムやケイ素は骨形成促進および骨吸収抑制作用を持つことが報告されている。 本研究ではこれらのアパタイト構成成分をポリエチレンテレフタレート繊維人工靭帯上にナノ粒子コーティングすることにより、骨形成能が向上できるか、検討を行った。ラット大腿骨より採取した骨髄間葉系細胞を用いた細胞培養実験により、特にケイ酸ストロンチウムをナノコーティングしたポリエチレンテレフタレートフィルム上で良好な骨形成能が示された。ラット同系への移植実験では異物反応を認めたため、コーティングのバインダーをポリメタクリル酸メチルからポリ乳酸へ変更のうえ、同様の培養実験を行ったところ、同様に骨形成能が得られた。同結果を得て、ケイ酸ストロンチウムをナノコーティングしたポリエチレンテレフタレート線維人工靭帯を家兎脛骨に作成した骨孔への移植実験を行ったところ、人工靭帯周囲に良好な骨形成が認められた。本結果は臨床応用にむけてさらなる発展が期待される。
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