研究課題/領域番号 |
16K21296
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
有持 旭 広島市立大学, 芸術学部, 講師 (30759783)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アニメーション / エストニア / シュルレアリスム / 風刺画 / プリート・パルン / 比較美術史 / オーラル・ヒストリー |
研究実績の概要 |
エストニア・アニメーションのシュルレアリスム受容を調査する本研究において、二年目となる本年度は、まず、学会にて「プリート・パルンの風刺画から読み解く〈不条理〉」(第19回日本アニメーション学会大会、6月)を発表し昨年度の成果を提示することから始めた。その後、夏に行なった実地調査は、昨年度に行なった文献調査及び聞き取り調査を補い、そして発展させるように実行した。ポーランドとチェコでは、エストニアのアニメーション作家や風刺画家たちが影響された1960年代の資料を一部入手することができた。フランスでは、シュルレアリスムに精通している哲学者からブルトンのテクストについて専門的知識を得ることができた。エストニアでは、国立公文書館、国立美術館、国立図書館、アニメーションスタジオを軸に、古書店や現地研究補助員の協力も得て、文芸新聞『Sirp ja Vasar』の三年分(1984年から86年)を入手するなど、一次資料となる貴重な新聞や雑誌を収集することができた。さらにアニメーション作家、風刺画家、学芸員、美術雑誌編集長など合計7人に聞き取り調査を行なった。年度後半は、実地調査の資料を基に風刺画家と前衛芸術グループとアニメーション・スタジオの相互関係について検証した。これらの調査結果の一部を、日本アニメーション学会研究集会(11月)で「《タリンフィルム》シュルレアリスト・グループの活動」という題目で発表した。この発表では、グループの活動記録写真を基に、なぜアニメーション作家たちはシュルレアリスム・グループを結成したのか、その「シュルレアリスム」とはどこから影響されたものなのか明らかにし、エストニア・アニメーション作家の側面を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にできなかった調査を概ね補うことができた。文献調査では、目標としていた全ての資料を得ることはできなかったが、聞き取り調査によって文献には無い、より具体的な史実を得ることができた。例えば、シュルレアリスム・グループの前衛的な芸術作品とアニメーションの直接的な関係について明らかにできたことは、本研究にとって大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成30年度は、早々の5月にエストニアにて実地調査を行ない、昨年度の研究と合わせて、第20回日本アニメーション学会大会(6月)にて発表する予定である。学会発表を経て、これまでの各セクションでまとめていたものを繋いでいく作業を行なう。実地調査では、独立以前に開催された風刺画展や、エストニア芸術の礎を築いた芸術協会の100年間の活動、タルトゥ美術館でのシュルレアリスム・グループに関するアーカイブ資料を調査する。さらに、アニメーション作家4名に対して聞き取り調査を行なう。例えば、プリート・パルンには『ホテルE』のナラティブに関することや絵本とアニメーションに関係について具体的に聞いていく。また、昨年度行なった聞き取り調査と同様の質問を別のアニメーション作家に行なうことで、その整合性を再確認し歴史研究としての強度を高める。シュルレアリスムと風刺画を当時の社会的問題と照らし合わせながら、エストニアにおいてこれらがどのようにアニメーションの文化形成に影響を与えたのか検証し結論を導き出し、来年度の成果発表の準備をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度における研究費の使用は、実地調査による旅費の一部と人件費に割り当てる。
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