本研究の最終年度は、これまで調査して得た資料を基に、エストニア・アニメーションにおけるシュルレアリスム受容に関して考察した。その過程で新たに出現した資料の不足箇所や問いを解決するために、二度エストニアを訪れ調査を行なった。これらの調査は、独立以前に開催された風刺画展やエストニア芸術協会の活動とアニメーション作家との関係性をも踏まえている。そして、研究の中心となっているアニメーション作家プリート・パルンの作品『ホテルE』と風刺雑誌『Pikker』とエストニアにおけるシュルレアリスム・グループに関する史実について詳細な資料を得るためのものであった。研究方法は、公文書館、美術館、図書館、芸術大学、古書店等での文献調査と資料収集、及びアニメーション作家4人へのインタビューである。 これらの調査の成果として、例えば、パルンがどういう理由で「シュルレアリスム」という言葉を使用したのか、ソビエト社会と関連付けながら明らかにすることができた。また資料として、シュルレアリスム・グループで制作されたオブジェ作品、アニメーションの絵コンテや原画を撮影し記録した。こうした想定していた成果のほかに、異なる前衛芸術グループに属する作家たちが会合したシュルレアリスム関連イベントの記録写真を入手することもできた。 これまで研究成果は学会発表のみであったので、今後は文章化し、より広く成果を残していく活動を行いたいと考える。その一つとして、『ホテルE』を分析した研究成果を現在の所属機関である近畿大学の紀要に春に投稿する。
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