頚動脈小体で感受した血中ガス分圧の変化を伝える頚動脈洞枝は、頚動脈洞にも分布して動脈圧を受容する感覚神経終末として機能しているが、その分布と形態の詳細は不明である。そこで、P2X3型ATP受容体の発現を指標としてラット頚動脈洞における神経終末の分布と形態を解析した。P2X3陽性神経終末は、頚動脈分岐部から約1mm離れた内頚動脈壁に局所的に認められた。神経終末は、分岐を繰り返すP2X3陽性神経線維と葉状および平板状の軸索終末部で構成されており、血管壁に対して平面的に分布していた。軸索末端部はS100陽性反応およびS100B陽性反応を示す終末シュワン細胞によって緊密に取り囲まれていた。また、一部のP2X3陽性軸索末端部にはP2X2型ATP陽性反応および小胞性グルタミン酸輸送体2(VGLUT2)陽性反応が認められたことから、頚動脈洞に分布する感覚神経終末においてもグルタミン酸が小胞分泌されている可能性が示唆された。生体ラットの内頚動脈において神経終末の分布領域を電気刺激すると、反射性の血圧低下が認められたことから、本研究で認められたP2X3陽性神経終末は動脈圧受容器であると考えられた。 さらに、免疫組織化学によって頚動脈小体におけるNMDA型グルタミン酸受容体GluN2AおよびGluN2Bの局在を精査した。GluN2AおよびGluN2B陽性反応は、チロシン水酸化酵素陽性反応を示す一部の化学受容細胞において認められた。また、GluN2AおよびGluN2B陽性化学受容細胞の周囲には、点状のVGLUT2陽性反応が観察された。以上の結果から、頚動脈小体感覚神経終末から小胞分泌されたグルタミン酸は一部の化学受容細胞に発現するNMDA受容体に作用していることが示唆された。
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