平成28年度および平成29年度までの研究成果により、2型糖尿病マウスであるレプチン欠損ob/obマウスにおいて、接触性および熱性痛覚過敏が認められること、並びに脊髄内angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2)発現量の低下が痛覚過敏の発現に関与している可能性を明らかにした。今年度は、ACE2の切り出し酵素であるa disintegrin and metalloproteinase 17 (ADAM17) および脊髄内におけるACE2の局在変化を検討することにより、ACE2発現量低下のメカニズムを解析した。その結果、ob/obマウスの脊髄後角ではADAM17の発現量に変化は認められなかった。一方、脊髄後角においてACE2の発現分布を検討したところ、ACE2は神経細胞およびミクログリアに発現していることが明らかとなった。野生型およびob/obマウス間での神経細胞およびミクログリアにおけるACE2陽性率に変化は認められなかった。一方、ob/obマウスでは神経細胞マーカーであるNeuN陽性細胞数が有意に低下していた。以上より、ob/obマウスの脊髄後角では神経細胞数の低下に起因してACE2の発現量が減少していることが明らかとなった。 平成30年度は上記の研究に加え、神経障害性疼痛モデルマウスであるchronic constriction injury (CCI) マウスで認められる神経障害性疼痛における脊髄内アンジオテンシン系の関与についても検討した。その結果、CCIマウスの脊髄内ではアンジオテンシノーゲン、AT1受容体、Mas受容体、ACEおよびACE2の発現量に変化は認められなかった。したがって、CCI誘発性神経障害性疼痛には脊髄内アンジオテンシン系が関与しないことが明らかとなった。
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