本研究では、東北タイ農村において、主に既婚女性が組織する住民組織に注目し、同社会のオルタナティブな公共圏についてジェンダーの視点から考察することを目的とした。最終年度にあたる平成30年度について、当初計画で設定した3つの主目標の成果は以下の通りである。 (1)女性住民組織に関する制度的な基盤の調査: 当初予定通り、マハーサラカム県ナーチュアック郡を事例とし、地方行政における女性住民組織の位置付けに関する調査を行うことができた。郡・区役所で郡行政の要職者に関する資料収集、及びその要職者へのインタビュー調査を行い、村落行政における男性の主導的役割と女性の補佐的役割という規範や、女性同士の共同性に依拠した女性リーダーの創出、特に女性リーダーと住民組織の関わりが明らかになった。 (2)女性住民組織の組織化と活動内容に関する調査: 昨年に引き続き、マハーサラカム県ナーチュアック郡S区C村にて、女性の住民組織への参加状況や社会的ネットワークの広がりについて調査を行った。特に、近年意欲的に新たな活動を展開している「タイ女性エンパワーメント基金」(Thai Women Employment Funds)の村リーダーにインタビュー調査を行い、住民組織への参加と排除について、貴重な情報を得ることができた。 (3)農村女性リーダーに関する調査: マハーサラカム県ナーチュアック郡S区にて、村長や副村長である複数名の女性へインタビュー調査を行い、地域コミュニティや村落自治における農村女性のリーダーシップと住民組織について、貴重な情報を得ることができた。また、上記の研究活動の成果の一部を、国際ジェンダー学会での研究発表や共著書、投稿論文などとして公開し、広く知見の共有と意見交換を行った。
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