研究課題
移植ドナーが不足している現在、造血幹細胞の大量生産は血液の再生医療・がん治療において極めて重要な課題である。近年、iPS細胞が新たな移植ソースとして期待されているが、造血幹細胞への分化誘導にはいまだに成功していない。一方、申請者は、妊娠早期(約60日齢、満期は147日齢)のヒツジ胎仔が免疫寛容を誘導することを利用し、造血発生の場である肝臓内でヒトiPS細胞由来の中胚葉細胞から造血幹細胞を作り出せることを見出した。しかしながら、ヒツジ体内におけるヒト造血幹細胞の作製効率は必ずしも高くないため、ヒツジ体外へ分離するのは容易でなく、正常で安全な造血機能を有するかは明らかではない。そこで本研究では、①ヒト由来細胞の刺激、②ヒツジ造血系の抑制により、ヒト造血幹細胞をヒツジ体内で増幅し、大量作製する技術を開発する。まずは、移植6日前に妊娠ヒツジ静脈内にブスルファンを投与する(上記②ヒツジ造血系の抑制に該当する方法)ことで、ヒトiPS細胞由来造血細胞をもつヒツジ複数頭を安定的に作出できた。次に、当該ヒツジに対してヒトリンパ球を投与することで、ヒト造血比率を向上できるか(上記①ヒト由来細胞の刺激と②を組み合わせた方法)を検証した。その結果、ヒト造血比率を約2 - 5倍に向上させることに成功した。また、ヒトリンパ球投与によってヒト造血比率が向上するメカニズムの1つとして、MHC非拘束性リンパ球による細胞性免疫が内因性造血抑制を起こしていることを明らかにした。以上の研究結果から、ヒツジ体内でヒトiPS細胞由来造血幹細胞を量的に向上させる技術ができた。当該技術は、ヒツジ体内からヒトiPS細胞由来造血幹細胞の取り出しを効率化させる技術として、極めて有用である。これらの成果は、特許出願した(特願2015-168702、PCT/JP2016/075743)。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Int J Hematol.
巻: 106 ページ: 631-637
10.1007/s12185-017- 2290-5.
http://www.jichi.ac.jp/saisei/