本研究は,狭路歩行を応用した高齢者のバランス能力評価法の開発が目的であった. 平成28年度は歩行バランス能力の評価に適した狭路幅を決定するため,12,8,4 cm幅×4 mの狭路歩行を高齢者(16名)と若年者(20名)に行わせた.その結果,歩行のみの課題(単純歩行)では4 cm幅で,歩行中に簡易な計算を伴う課題(二重課題歩行)では8 cm以下の狭路幅で高齢者の到達距離が若年者よりも短くなることが分かった. 平成29年度は4 cm幅の狭路歩行における高齢者のトレーナビリティを検証するため,バランストレーニング介入実験を行った.高齢者をコントロール群(9名)とバランストレーニング群(15名)に割り当て,2ヵ月間の介入期間前後に狭路歩行,開眼片足立ち時間,ファンクショナルリーチ,歩行速度,下肢筋力を測定した.狭路歩行の到達距離は,単純歩行では両群とも17%向上したが,二重課題歩行ではトレーニング群は30%向上しコントロール群は2%低下した.また,トレーニング群のみ開眼片足立ち時間,ファンクショナルリーチ,膝関節伸展筋力,および股関節伸展筋力が向上した.これらのことから,バランストレーニングによって高齢者の基礎的な運動機能だけでなく運動―認知機能が向上することが確認された. 平成29~30年度は,狭路歩行と年齢・性別・身体活動度の基礎データベース構築のため大規模データ収集を試みた.当初計画では20歳代から80歳代までを10歳区分に分け,各区分で30~40名程度の被験者を募る予定であったが,トレーニング実験の分析が予定より遅れたこと,評価項目決定の議論に時間がかかったことから,20歳代 (36名)と70歳代以上(60名)に焦点を絞ってデータ収集を行った.そして,20歳代では身体活動度と狭路歩行の関連はみられないが,70歳代以上では身体活動度と転倒経験が狭路歩行に関連する傾向がみられた.
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