研究課題/領域番号 |
16K21325
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
宇和田 貴之 城西大学, 理学部, 助教 (30455448)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多孔質材料 / タンパク質結晶 / 金ナノ粒子 / 局在プラズモン共鳴 / 金クラスター / 顕微イメージング |
研究実績の概要 |
我々がこれまで行ってきたタンパク質包接金クラスターを調製する方法を発展させ、タンパク質結晶を多孔質材料と捉え反応場として結晶内に発光性金クラスターを三次元分布した構造を調製するべく、ニワトリ卵白由来リゾチーム結晶を多孔質材料として内部に金イオンを浸透させた後に還元反応を起こすことを試みた。リゾチーム結晶の周辺に金イオンの溶液を導入すると元の無色透明から全体的に赤色を呈してゆき、吸収分光測定からその赤色が数10 nmの金ナノ粒子の局在プラズモン共鳴に由来するものとわかった。すなわち、リゾチーム結晶内に金イオンが浸透し還元反応が起きることを実証したものであり、タンパク質結晶が多孔質材料として機能することを示した。 また、内部に金ナノ粒子の生成したリゾチーム結晶に405 nmのレーザー光を照射すると、700 nm近傍の発光を示すことを確認した。これは、結晶内部に数10 nmの金ナノ粒子のみならずそれよりもより小さな1~2 nm程度の発光性金クラスターが形成したことを示唆する。このナノ粒子とクラスターという結晶内における金ナノ構造のサイズの分布は、結晶内の細孔のサイズ分布および結晶の柔軟性に起因すると考える。柔軟性の低いタンパク質結晶であれば、よりサイズ分布の狭い、均一な金ナノ構造を調製できるものと考えられる。 想定を越えた発見として、上記の内部に金ナノ粒子の生成したリゾチーム結晶に405 nmのレーザー光を照射することで、結晶の呈している赤色が濃くなり最終的に結晶が割れること、および580 nmに発光バンドが現れることを確認した。これはレーザー光により金イオンの還元が促進されることを意味している。この理由としてリゾチームのもつアミノ酸に405 nmを吸収するものがあり、それが光励起によって電子励起状態となることで還元能が高くなると考えており、今後より詳しく調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質結晶内に金イオンを浸透させ還元反応を起こすことで結晶内に三次元に分布した金ナノ構造をつくる、という初年度の目的は達成しておりおおむね順調であるといえる。また、次年度の研究に向けて現在保有するワイドフィールド蛍光顕微分光イメージング装置に高感度sCMOSカメラを組み込み、単一分子イメージングも可能なように準備しており、その動作確認も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
確立したリゾチーム結晶を多孔質材料・反応容器とした三次元金ナノ構造の調製を光学顕微鏡下で行い、金イオンが結晶に浸透し金ナノ構造が内部で成長し三次元構造を形成してゆく過程をリアルタイムイメージングする。タンパク質の形状は自家蛍光で確認でき、成長する金クラスターは発光波長が青~緑~赤と変化してゆく様子からモニターできる。現在保有するワイドフィールド蛍光分光イメージング装置であれば、共焦点顕微鏡による観察とは異なり結晶全体を同時に観察できるため、金クラスターの局在や結晶内部と結晶周縁部での反応のタイムラグなしにリアルタイムに可視化できる。sCMOSカメラの感度により単一クラスターレベルでの観察が可能と考える。金イオンに代わり水溶性色素分子を結晶に浸透させ、その浸透過程や結晶内における分子の分布や配向を知ることも行いたい。 また、タンパク質結晶の多孔質材料としての多様性を調べるためにも、他のタンパク質や架橋リゾチーム結晶を用いて同様の実験を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
5009円ほどの残額であり、ほぼ計画通りに経費を使用したと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はほぼ消耗品の購入のみを計画しており、次年度使用額もやはり消耗品に使用すると考えている。
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