前年度にタンパク質結晶を多孔質材料・反応場として結晶内に三次元分布した金ナノ構造の調製を試みた。ニワトリ卵白由来リゾチーム結晶内部に金イオンを浸透させ10日ほど静置することで、結晶内部に数10 nmの金ナノ粒子と1~2 nmの発光性金ナノクラスターが一様に形成することを実証した。この二種の金ナノ構造体の形成は、顕微鏡下での吸収・発光分光により明らかにした。本年度はこの成果を更に発展させ、柔軟性の低いタンパク質結晶を用いてサイズ分布の狭い、均一な金ナノ構造を調製できるものと考え実験を行った。具体的には、リゾチーム結晶をグルタルアルデヒドで架橋することで結晶を固定化し、同様の実験を行った。結果、ネイティブな結晶よりもはるかに早く1日以内での金ナノ構造の形成を認めた。これは架橋により結晶が強固となることで金イオンの不均化反応が生じやすくなったためと考えており、タンパク質を反応容器として用いる際の重要な知見と位置づけている。
また、タンパク質結晶の反応容器としての側面のみならず多孔質材料としての側面を検討するため、結晶へ蛍光分子を導入し、その過程および結晶と分子の相互作用を顕微蛍光分光により調べた。例えばローダミン6GやエオシンYなどの蛍光分子を含む溶液を結晶周辺溶液と置換したところ、結晶内部に分子が導入されていく様子を蛍光イメージングにより示すことができた。つまり結晶は溶媒チャンネルを通して外部から分子を取り込むことができる、多孔質材料として機能することを明らかにした。一方、結晶内部に導入されたカチオン性分子の蛍光は溶液と比べ長波長へとシフトしており、チャンネルの電荷と分子の電荷との間での反発が示唆される結果を得た。今後は分子の大きさも変数として同様の実験を行い、分子選択性などタンパク質結晶が多孔質材料特有の性質を示しうるか、調べてゆく予定である。
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