ミトコンドリア病は、呼吸鎖複合体の酵素活性の低下によって引き起こされる先天性代謝異常症である。ミトコンドリア病と診断されたSmall-for gestational age (SGA)性低身長症の男児の全エクソーム解析を行った結果、Fatty acid transport protein 3 (FATP3)遺伝子にミスセンス変異が抽出された。FATP3はミトコンドリアに局在する脂肪酸輸送体であるが、呼吸鎖複合体との関係はよくわかっていない。そのため、本研究ではFATP3の生理的役割を細胞レベルで解明することを目的に、FATP3ノックアウトヒトiPS細胞(hiPS細胞)を作製した。 FATP3ノックアウト細胞を作製するため、我々が樹立したhiPS細胞に最適な遺伝子導入条件とピューロマイシン選択濃度の検討を行った。次にFATP3のゲノム編集用ベクターとノックイン用ベクターを構築し、これらのコンストラクトを導入した。ピューロマイシンで薬剤選択した後、取得したクローンについてPCRによるジェノタイピングを行った。サンガーシーケンスで、選択カセットの挿入や欠失変異が確認されたクローンについて、FATP3遺伝子及び、タンパク質発現量をそれぞれqRT-PCRとウエスタンブロッティングで確認した。その結果、4クローンを樹立することができた。 これらのクローンについて呼吸鎖複合体I、II、III、IVをそれぞれ構成するサブユニットのタンパク質発現をウエスタンブロッティングで調べたところ、正常hiPS細胞との差は認められなかった。また、SOX2の発現量にも差が認められなかった。増殖能にも顕著な低下は観察されず、以上のことから、分化誘導前のhiPS細胞の多能性や生存には、FATP3は重要ではないことが示唆された。今後は、内胚葉や外胚葉系へ分化誘導させたときのミトコンドリア機能の評価が必要である。
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