本研究は化学的に安定な高温酸化物熱電材料であるホモロガス構造In2O3(ZnO)m超格子薄膜に注目する。スパッタ法により合成する製造技術を確立し、薄膜合成技術に関した固相反応のメカニズムを解明した。さらに、パルス光加熱サーモリフレクタンス法を用いて、In2O3(ZnO)m超格子薄膜の熱物性を測定し、第一原理計算によりその熱伝導機構を解明した(論文投稿中)。また、高温in-situホール測定装置を用いて、In2O3(ZnO)m超格子薄膜の電気伝導機構を解明した。
平成30年度には、研究計画に従って、アモルファスIn2O3-ZnOからホモルガスIn2O3(ZnO)mへの固相成長に関して、その場XRD測定及び広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定を用いて、Znの含有量が変化したアモルファスIn2O3-ZnO薄膜の結晶化過程を観察した。3元系In2O3-ZnOの結晶化過程において、カチオンであるZnとInの局所構造の時間変化や点欠陥の形成挙動を定性的に解明した。これらの手法に関して、九州シンクロトロン光研究センター2017年度の年報に掲載した。これらは、本研究が目指す層状構造を持つ高温酸化物熱電材料の作製にとって有益な基礎的知見である(現在論文をまとめて投稿中である)。また、結晶化過程を再建するため、分子動力学シミュレーションツールを構築した。現在、EXAFSで得られた結果と比較し、結晶化する際にZnとInの拡散挙動を理論的に解明することが進めている。
さらに、平成30年度には、平成28年度と平成29年度に得られたホモロガスIn2O3(ZnO)m 薄膜の電気特性・熱物性データを総合的に解析し、400℃以上の高温でZnフレンケル欠陥の形成によりできた格子間亜鉛が高温熱電特性への影響を解明し、In2O3層間のZnOの挿入層数が熱伝導率及び熱電特性への影響を明らかにした。これらは、本研究が目指す層状構造を持つ高温酸化物熱電材料の開発にとって有用な設計指針である。
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