研究課題/領域番号 |
16K21341
|
研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
宮崎 美智子 大妻女子大学, 社会情報学部, 講師 (90526732)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 視線随伴 / Agency / 乳幼児 / 視線計測 |
研究実績の概要 |
自らが行為をしているという感覚(行為主体感:Sense of agency)は我々の自己意識の根幹である。行為主体感には,感覚運動情報から導かれるボトムアップの主体感と文脈・信念等から導かれるトップダウンの主体感とが存在する。近年の研究において、トップダウンの主体感は、ボトムアップの主体感とは独立に働き、社会適応的な側面を持つこと、また発達上生後1年目の後半で獲得されることが指摘され始めてきたが(Miyazaki et al.,2014;Wang et al., 2012)、そのメカニズムは明らかにされていない。本計画では、我々がこれまで行為主体感の発達評価のために開発してきた視線随伴課題を用いて、トップダウンの行為主体感の発達過程と社会適応的上の意義について明らかにする。 先行研究から、トップダウンの主体感の萌芽は生後8カ月頃であることが示されているが、この主体感が、自己感の投射といった、成人同様の社会適応的な機能を持つかについてはまだ分かっていない。そこで我々は、従来のイメージ・スクラッチ課題を改良し、注視行動が直接結果をもたらすのではなく、注視行動により画面上のagentが動いて結果をもたらすという自他判断を伴う課題を作成した。 この新たな視線随伴課題を用いて、①乳児が合目的な視線の操作をするか(ボトムアップな主体感を示すか)、②視線随伴性を伴うagentとそうでないagentの動きを区別し、いずれかに選好を示すか(トップダウンの主体感を示すか)、という点について検討を行った。 その結果、①新たな視線随伴課題でも乳児は合目的な視線の操作をすること、視線の操作は8ヶ月児の方が長けていること、が示された。また、②乳児は視線随伴性を伴うagentとそうでないagentの動きを区別し、特に8ヶ月児において、自己agentに手伸ばし反応をするという選好を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、従来のイメージ・スクラッチ課題を改良し、注視行動が直接結果をもたらすのではなく注視行動により画面上のagentが動いて結果をもたらすという自他判断を伴う課題を作成した。この課題を5ヶ月・8ヶ月児に実施したところ、乳児は視線随伴性を伴うagentとそうでないagentの動きを区別し、8ヶ月児は5ヶ月児に比べて、自己agentに手伸ばし反応をする傾向を示すことが分かった。8ヶ月児におけるトップダウンの主体感の様相を一つ明らかにすることができたため、進捗状況はおおむね順調と判断した。 しかし、予測と異なる結果が得られた側面も持つ。この選好は月齢間比較に基づく有意差である。自己agentに対する手伸ばし反応は、チャンスレベルに比して有意に多く見られたわけではないため、8ヶ月児で自己agentに対する自他判断が成立しているとは言い切れないことも分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、8ヶ月児は合目的な視線の操作をするが、その行為は顕在的な自他判断には立脚していない可能性が示された。当初の計画では、8ヶ月児はトップダウンの主体感をもっと明確な形で獲得していると想定していたが、そうではなかったため、トップダウンの主体感の様相をより精査する計画に変更する。平成29年度は、乳児のとる合目的な視線の操作が、habitのような収束的な行為であるのか、あるいは文脈に応じた柔軟な操作なのかを明らかにする。 そこで我々は、現在の課題を改変し、乳児に呈示される社会的な状況に依存してとるべき合目的行動が異なるという課題を設定する。そのような課題に設定することで、乳児が状況に応じた合目的な視線操作を行うかどうかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
乳幼児の実験を3月31日まで継続して実施した。そのため、主に3月末分の実験補助謝金、被験者謝金部分が次年度の請求になった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用理由の通り、3月の実験にかかる費用を次年度分の請求で使用する計画である。
|