本研究では、ネマチック液晶に剛直骨格のキラルドーパントを混合した系に対する分子動力学シミュレーションによって、キラルドーパントの液晶に対するらせん誘起力を理論的に求める手法の確立を目的としている。初年度、2年目では、複数のネマチック液晶とキラルドーパントの組み合わせについて、分子動力学シミュレーションを用いた手法によって、キラルドーパントのホスト液晶に対するらせん誘起力を十分な精度で求めることができた。研究計画最終年度では、中心骨格がわずかに異なるキラルドーパントについても本手法の有効性を検証した。らせん誘起力の大きさ、符号共に、実験と良い一致を示した。また、光学実験で観察されていたゲスト分子であるキラルドーパント、あるいはホスト液晶に依存的ならせん反転現象の機構解明を目指して、分子動力学シミュレーションによってドーパント分子近傍の液晶分子の配向構造解析を行った。その結果、ドーパント分子と液晶分子との立体的相互作用と静電的相互作用の競合によって、形成されるらせんの巻き方向が決定されているということを明らかにした。これにより、目的のらせん誘起力を有する剛直骨格のキラルドーパント分子を設計する上で重要な一つの指針が得られた。さらに、ある一つの置換基を変えることで液晶との相溶性が劇的に向上したドーパント分子についてもシミュレーションを用いた解析を行った。そして、分子形状の類似性が相溶性に大きく寄与していることを報告している。
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