研究課題/領域番号 |
16K21362
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
花屋 賢悟 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (50637262)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スルホン酸エステル / 刺激応答性リンカー / 分子内環化 / 1,4-付加 / チオール応答性蛍光プローブ |
研究実績の概要 |
平成29年度は、当初の計画に従い、前年度に開発したアミノプロピルスルホン酸エステルを母核とする「刺激応答性リンカー」にベンジルアンモニウムをトリガー部位として導入したプロドラッグを2種類合成し、その分解実験を試みた。末端アミノ基を第四級アンモニウム塩とすることにより、プロドラッグの水溶液中での安定性、溶解性、さらに外部刺激によるトリガー部位の分解促進を期待した。生体内酸化酵素(CYP)による芳香環またはベンジル位の水酸化を起点としてドラッグを放出するプロドラッグと、光照射によりo-ニトロベンジル基が分解するとドラッグを放出するプロドラッグを合成した。前者のプロドラッグについては、ラット肝ミクロソーム分画中インキュベートし、反応液のHPLC分析により代謝活性化を検討した。プロドラッグは分解したが、遊離すると期待した化合物のピークは確認できず、代わりに生成した化合物の同定は困難であった。一方、o-ニトロベンジル部位を光応答性部位として導入したプロドラッグについては、1H NMRによりその分解反応を追跡したが、ドラッグの遊離は確認できなかった。 上記に加えて、29年度は、前年度開発した「刺激応答性リンカー」を応用し、チオール応答性蛍光プローブも行った。アミノプロピルスルホン酸エステルに二重結合を導入して得られる、ビニルスルホン酸エステルを母核とした刺激応答性リンカーに、チオールが1,4-付加すると同時に分子内環化が進行し、蛍光分子を放出する。本刺激応答性リンカーを蛍光分子クマリンおよびrhodolに結合した化合物は、それ自体ほとんど蛍光性を示さないが、生体内と同程度の濃度である1 mMのグルタチオンを加えると、100秒程度ですべての刺激応答性リンカーが分解、蛍光分子が遊離し蛍光が回復した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の計画に従い、ベンジルアンモニウムを母核とし、生体内酸化酵素または光照射により分解するプロドラッグを合成し、その分解実験を試みた。しかし、ドラッグ自身の酸化、および低い光分解効率が原因で、ベンジルアンモニウムを母核としたプロドラッグの活性化を確認することができていない。以上の点で、当初の計画は遅れている。しかし、新たにチオール応答性つまり生体内の酸化還元状態に反応しうる刺激応答性リンカーの開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、ドラッグとして8-キノリノールを用い、トリガー部位であるベンジルアンモニウム塩の構造を検討してきた。しかし、反応条件下、8-キノリノールの分解が併発してしまい、トリガー部位の分解に関する評価が困難であった。そこで、薬物代謝に関する情報がより豊富であると考えられるSN-38をドラッグとして用いる。すなわち、当初の計画に従い、SN-38のプロドラッグを合成し、その活性化について検討する。 一方、生体内チオール分子、特にグルタチオンは、細胞または組織の酸化還元状態を維持する重要な生体分子で、その濃度をリアルタイムで知る手段の開発が望まれている。本年度開発に成功した、ビニルスルホン酸エステルを母核とする刺激応答性リンカーを有するチオール応答性蛍光分子は、それ自体ほとんど蛍光性を示さなかったが、グルタチオンと反応するとただちに刺激応答性リンカーが分解し、蛍光分子が遊離、蛍光性が回復した。しかし、本分子はグルタチオンと他の生体内チオール、例えばシステインを区別することができない。次年度は、この点を改良したチオール応答性蛍光分子の開発に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、すでに所有していた合成用試薬を使用して研究を進めることができた。そのため、消耗品として計上していた有機合成用試薬の購入を抑えることができた。さらに、他業務の繁忙のため、実際の支出が当初の支出計画を下回った。 次年度は、SN-38やグルタチオンなどの化学試薬や生体試料等の高額な試薬を新たに購入する必要がある。さらに分光用石英セルや分光器用のランプ等の購入が予想され、平成29年度と比較して大きな支出の増加が見込まれる。旅費については、国内学会への参加を計画している。
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