研究課題/領域番号 |
16K21364
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
神前 裕 慶應義塾大学, 先導研究センター(三田), 特任助教 (80738469)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬物依存 / 条件性場所選好 / 刺激間競合 / 相反過程理論 |
研究実績の概要 |
以下に示す研究にて、随伴性依存学習の時間的特徴および薬理学的側面を検証した。事象間の随伴性に依存した学習を反映する現象である隠蔽効果が、メタンフェタミンを無条件刺激(US)とし、かつUSが条件刺激(CS)と時間的に長時間共存する場合に確認できるか、マウスにおける条件性場所選好(CPP)の手続きを用いて検討した。CPPでは場所刺激が条件刺激(CS)となり、薬物と対呈示された場所CSに対するテストでの滞在時間増加が条件づけの指標となる。本実験では匂いのついた物体刺激を場所CSに加えて呈示することで複合条件づけを行った。複合CSがどちらもUS投与と相関している群(隠蔽群)と、場所と匂いが存在するが場所のみがUSと相関している群(場所群)においてともにCPPが形成され、その程度は群間で差がなかった。これは隠蔽の欠如を示す。同時に、より長期にわたる条件づけ訓練を行うと、 隠蔽群と、場所と匂い物体が存在するが匂いのみがUSと相関している群(匂い群)においてともに匂いに対する条件性嫌悪が形成され、その程度には差がなかったことから、やはり隠蔽の欠如が示された。同時に、同用量のメタンフェタミンが場所選好と同時に匂い刺激に対する嫌悪を形成したことを示す。これは相反過程理論が仮定するb過程が匂い刺激と特異的に結びついた結果であると考えられる。濫用薬物と結びついたCSが嫌悪的な状態を喚起することは、負の強化により薬物摂取行動を促進する主要な要因であると考えられてきた。本研究はこの理論を実証し、かつ刺激属性および発達要因について明らかにした点で極めて大きな意義がある。また他に、自閉症モデル系統マウスを用いて、正常なCPPとともに時間的に短いCSを用いた課題での随伴性依存学習の障害を示し、自閉症における種々の障害の根底に随伴性に依存した予測学習の障害がある可能性を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
[研究実績]に記した複合条件づけを用いた研究の遂行にあたり、実験Iにおいて予想外かつ興味深い結果が得られたため、その要因をさらに詳しく検討するために、実験IIからVまでを追加で行った。これらの成果は2件の国際学会において発表済みであり、また現在これに関して論文投稿の準備をすすめているところである。また本研究課題の要点である随伴性依存学習が自閉症スペクトラムにおいて阻害されている可能性について新たに着想を得て、並行して実験を行った。この自閉症のモデル系統マウスを用いた研究からは本研究課題の仮説にとって重要かつ興味深い結果が得られ、この結果についてはすでに国際誌にて論文発表を行った。上記の研究が計画よりも数多くの実験と時間を必要としたため、当初本年度に予定していたもう一つの研究計画は来年度に実施することとなった。このため、全体としての計画に照らしての現時点での進捗は、若干遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
[研究実績]に記した研究について、事象間の随伴性依存学習を反映するもう一つの現象であるブロッキングが見られるか、また濫用薬物ではなく食餌をUSとして用いた場合にも同様の効果が得られるかを検討する。同時に、従来の予定通り、空間学習における刺激間競合についての研究、および逆行条件づけとUS表象についての研究を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予算通りの合計額を使用したが、研究計画の推進の若干の遅れに伴い1029円の誤差が生じたため、次年度に繰り越して使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画のうち、前年度に推進する予定であった部分の消耗品費に当てる予定である。
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