研究実績の概要 |
平成28年度はドイツの難民法制、そして難民の定住化支援の実施について、主として資料の収集を行った。ドイツでは2015年の難民危機を契機として、庇護申請手続についても定住化支援についても多くの立法や新たな試みが行われたため、これらの施策を体系的に整理する作業に多くの時間を費やした。とりわけ重要なのは、2016年6月に成立し、同年8月より施行された統合法(Integrationsgesetz, (BGBl. 2016 I S. 1939))である。同法は2015年の難民危機に対する立法者からの直接の応答として理解することができ、内容面では難民への滞在権付与にあたって社会統合への協力を要求する点や、長期滞在が見込まれる難民に対しては就労禁止などの措置を緩和して、自活・自助の道を開いた点が重要である。こうした立法・文献資料の収集に加えて、南西部の地方自治体において、難民の社会統合のためにどのような施策が試みられているかについても調査を行った。 研究内容の公表という点では、2016年6月に一橋大学のEU法研究会において移民法分野におけるドイツ法とEU法の交錯というテーマで報告した他、2016年9月に神戸大学において移民法についての国際セミナーにて日本の入国管理法制について報告し、ドイツやイタリアの移民法制との比較を行った。 こうした研究活動の成果として、ヨーロッパにおいては難民の受け入れおよび定住化支援法制が複層化していることが明らかになった。一方においては超国家的な制度の発展があり、他方においては国家の下位レベルにある地方自治体を取り込む形で難民や移民の管理が行われている。
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