最新の裁判例及び学説を精査し、そこに現れた問題を指摘するとともに、比較法的視点を踏まえ、解決策を提示することができた。 具体的には、近時の価値観の多様化に伴い既存の名誉毀損法理では対処できない事例が現実の裁判例の中に現れてきたことを指摘し、それに対処するために名誉・プライバシーという人格的利益に関してこれまでなされてきた議論に欠落してきた視点をドイツ法及びアメリカ法の議論から明らかにした。また、そのような視点を示すにあたって、アメリカ法及びドイツ法研究に関する日本の先行業績ではなぜその視点が紹介されてこなかったか・又は重視されてこなかったのかという理由を明らかにした。比較法研究とともに先行業績の分析を行うことによって、現在の日本法の議論に矛盾のない形で、アメリカ、特にドイツ法で重要性を増してきた新たな法益が承認されるべきことを論証した。また、法益侵害の救済方法に関するこれまでの議論の混乱の原因を示した。すなわち、差止めに関する重要な最高裁判決の先例的意義に関して裁判例及び学説に一定の誤読が存在していることを示し、それによって裁判例の適切な分析の方向性を示すことができた。また、差止めに関する議論の前提であるはずの用語法に関して裁判例及び学説に存在する多義性を具体的に論証した。これによって、議論の前提を明瞭なものとし、さらには人格的利益侵害に対する適切な救済方法が、さらに存在することを示すことができた。
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