子供において、嗅覚は、記憶や感情などの高次脳機能の発育に影響を与え、将来の職業選択やパートナー選択に関与する可能性が指摘されている。そのため、子供の嗅覚解明は、脳や心の成長発達への糸口になる可能性がある。しかしながら子供の嗅覚についてはこれまであまり研究や調査はなされてきていない。また現在保険適応である嗅覚検査は主に大人を対象に作られてきたため、子供の嗅覚評価法も確立していない。 本研究では、新潟県の特定地域における小学生から高校生697名(女子366名、男子331名)にカード式嗅覚検査「Open Essence」を用いて、嗅覚同定能(においをかいで何のにおいか当てる能力)の調査をした。 その結果、6歳から18歳に至るまで、年齢とともに上昇し、更に、香りに関する家庭内での会話や興味は、子供の嗅覚同定能を良くする可能性が考えられた。嗅覚同定能は身長や体重、兄弟の有無や家族の喫煙歴との関連は認められなかった。結果に基づいて各年齢における基準値を作成したところ、6歳から9歳までは5点、10歳から14歳までは6点、15歳から18歳は7点となった。 Open Essenceはクイズ感覚でできるため、6歳の小児においても施行が可能であった。また本研究にて作成した基準値は、本邦において子供の嗅覚障害患者を評価する際の1つの指標となりうると考える。香りに関する家庭内での会話は、子供の嗅覚同定能に影響する。幼少期より嗅覚への興味を持つことで、より豊かな生活を送ることができるようになるであろう。子供の嗅覚を解明することで、高次脳機能の成長発達学の分野や精神神経疾患解明への新たな糸口になる可能性を秘めている。今後、本検査が広く活用されることで早期診断に役立ち、子供の成長発達と嗅覚の関連性に着目した研究の推進が期待される。
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