研究課題/領域番号 |
16K21396
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
輪島 丈明 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (00516669)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 莢膜 / 形質転換 |
研究実績の概要 |
肺炎球菌のポピュレーションは、ワクチンの定期接種化とともに大きく変化している。我々は、肺炎球菌臨床分離株の分子疫学解析を通して、莢膜を保持せずPspKを産生する無莢膜型株がワクチン導入以降出現し、増加していることを見出した。そこで、PspKの獲得と無莢膜化がワクチンからのエスケープ機構になるという作業仮説を立て研究をおこなっている。すなわち、本研究の目的は、PspK保持無莢膜型株の出現・増加の要因とその機能解析である。本年度は、まずPspK欠損株の作成ならびに、組み換えPspKタンパク質の作成を行った。PspK欠損株は、相同組み換えにより、PspKのORFをマクロライド耐性遺伝子ermBまたはクロラムフェニコール耐性遺伝子catのORFと入れ替えることで作成した。また、組み換えPspKタンパク質は、GST融合タンパクとして大腸菌に発現させ、トロンビン処理によりタグを取り除くことで作成した。 作成したPspK欠損株のゲノムDNAを抽出し、種々の莢膜保持臨床分離株と混合した。その結果、莢膜保持株がゲノムDNAを取り込み、莢膜周辺領域で組み換えを起こすことで莢膜が脱落することを見出した。また、莢膜脱落株は莢膜保持株と比較し、増殖が速いことを見出した。これらのことは、肺炎球菌のもつ自然形質転換能が、莢膜の脱落とPspKの獲得に関与していることを示唆している。さらに、莢膜脱落株は増殖能力が高いことから、生存に有利に働く可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、PspKの機能解析とPspK獲得機構の解析という2つの目的からなる。本年度は、欠損株ならびに組み換えタンパク質を作成、精製することができた。さらに、欠損株のゲノムDNAが莢膜保持株の莢膜領域を脱落させることと、脱落株は増殖が遅いことを示した。これは、2つ目の目的である獲得機構を明らかにするうえで非常に重要な知見であり、莢膜保持株がもつ自然形質転換能によりPspKの獲得と莢膜の脱落が起こりうることを示している。また、この成績は莢膜の脱落が生存に有利に働くことを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
欠損株、組み換えタンパクが得られたため、PspK獲得機構の解析研究と並行し、PspKの機能解析研究を進める。今年度は、肺胞上皮細胞に対する付着性、マクロファージ細胞の貪食に対する抵抗性を検討する。また、PspKの相互作用因子を同定するために、Pull-down assay等を行う予定である。このことで、PspKが莢膜の機能を補完しうるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、欠損株の作成ならびに欠損株を用いた研究に注力したため、抗PspK抗体作成は行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度中に作成した、組み換えPspKタンパクを用いて、抗PspK抗体の作成を外部委託する予定である。
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