肺炎球菌莢膜ワクチンの定期接種化以降にPspKをもつ無莢膜型株が顕在化したことから、莢膜の脱落とPspKの獲得による無莢膜化がワクチンからのエスケープ機構になるという作業仮説を立てその検証を行っている。昨年度までに、莢膜保持株が無莢膜型株のゲノムDNAを形質転換により取り込み、組換えを起こすことで、容易に莢膜が脱落することならびに、莢膜が脱落した株は、莢膜保持株と比較しフィットネスが高いことを明らかにした。加えて、PspK保持無莢膜型株は、細胞への付着能が高いことを明らかにした。また、無莢膜型株はPspKの有無にかかわらずバイオフィルム形成能が高いことからPspK以外にも増加に関与する要因があることを示唆する結果を得た。そこで本年度は、PspKの免疫系に対する機能ならびにPspK以外のバイオフィルム形成因子について検討を行った。 まず、複数のヒト血清を用いて補体抵抗性を評価した。さらに、ヒトマクロファージ細胞株THP-1による貪食抵抗性を評価した。その結果、無莢膜株は莢膜株と同様の補体抵抗性を示した。一方で、無莢膜株(PspK保持無莢膜株および莢膜脱落株)は、莢膜保持株と比較し有意に貪食された。すなわち、PspKは莢膜と同様の免疫回避能を持たないことが明らかとなった。 次いで、無莢膜株のバイオフィルム形成因子について、ゲノム情報を用いて莢膜株との比較解析により検討を行った。また、種々の型で莢膜保持株とその脱落株を作成し、バイオフィルム形成能の比較を行った。その結果、莢膜の有無以外に明確な違いはなく、莢膜がないことがバイオフィルム形成能に寄与していることが示唆された。
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