研究課題
本研究の目的は,心理指標と行動指標を組み合わせ,大学生における自閉性症状をはじめとした性格特性を定量的に記述する手法を確立することである.自閉性症状の評価には質問紙検査などの心理指標が用いられるが,被検者の主観報告に依存して回答が歪みうる.一方で,近年,自閉症者と非自閉症者では人の顔に対する視線行動が異なることが報告されており,この非随意的に生じる視線行動の違いは自閉性症状の高低を記述する客観的な行動指標となりうる.また,自閉性症状だけでなく,基本の性格特性や共感性についても視線行動および生理指標計測との対応をとることで,ヒトを記述するための客観的な指標を確立することを目指す。本年度は視線計測を行うための倫理審査申請を行った後,課題1-1として設定した質問紙の選定を完了した。その後,課題2として設定した,視線行動のパラメータ抽出の予備実験を開始した。予備実験では,パラメータ抽出の前段階として,正答率と性格特性の相関を検討し,先行研究の知見を支持する結果を得た。予備実験の結果は論文として公刊予定であり,また,次年度に学会発表を予定している。また,これまでの視線計測研究を7月にCurrent Biology誌にて論文として公刊した。本論分では,日本と英国の7か月児を対象に,表情画像を観察中の視線を計測した。その結果,日本人乳児と英国人乳児とでは,表情を学習する際に注目する箇所が異なることが明らかとなった。生後7か月間の文化接触経験が,表情認知時の視線行動に異なる影響を与えることを示した。当該論文で用いた解析手法であるiMapは,既存の解析手法に比べて,事前に関心領域を設定することなくデータ駆動的な解析を可能にするものである。そのプログラムは広く公開されており,本研究課題の解析にも適用することができる。
2: おおむね順調に進展している
研究倫理審査に時間を要したが,今年度中に当初の予定通り実験室のセットアップを完了した。さらに,予備実験を行うことができた。予備実験の結果は論文として公刊予定であり,また,来年度に学会発表も予定している。課題を進める過程で,当初予定にはなかった共同研究の計画が生じ,視線行動に加えて,ほかの生理指標も計測できる体制を整えることができた。これにより課題2で予定しているパラメータ抽出において,解析できる計測データが増えることになる。研究全体の目標である,心理指標を行動指標との対応付けに加え,生理指標との関連も検討することでさらに詳細な検討ができる見込みであることから,当初の計画以上に進展していると考える。
今後は,課題1-2として設定した視覚刺激の選定を進めながら,課題2の予備実験を行う。課題1-2と課題2は順番に進めるのではなく,それぞれの結果を互いに循環させて進める。すなわち,予備実験の結果を踏まえて,視覚刺激を改訂し,さらに予備実験を行う。実験プロトコルを洗練させたのち,本実験を始動させる。本実験にあたっては,上記の生理指標計測にも対応した手続きを考慮する必要がある。予備実験,本実験ともに,大学生を実験参加者としているため,大学の学事予定によっては被験者のリクルートが困難となる時期があると予想される。そのため,実験参加者が定常的に参加しやすいような募集の仕方を検討する。
倫理審査に半年を要し,研究開始が遅れたため。
研究の進展により新たな指標を取り入れて実験を行うこととしたため,予備実験を追加で行う必要がある。次年度使用額は被験者謝金として使用する予定である。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 備考 (1件)
Current Bioloty
巻: 26 ページ: R663-R664
10.1016/j.cub.2016.05.072
https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/achievement.php?58b0