研究課題/領域番号 |
16K21405
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
岩崎 大 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (80706565)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 死生学 / 死生観 / 自殺 / 実存思想 / デス・エデュケーション / 哲学 / 自殺予防 / 臨床 |
研究実績の概要 |
自殺予防に与する哲学の死生学的実践を試みる本研究において求められるのは、第一に、死の哲学および自殺の哲学についての文献購読による、歴史的な死生観の変遷から自殺予防の論理的、道徳的可否について検討し、自殺予防を再定義すること、第二に、本研究における、とりわけ実存思想を中心とした死と苦悩の哲学的考察の実践的意義を、現代社会の死生観形成の意義という文脈で解釈すること、第三に、上記の研究内容を実践するための具体的なデス・エデュケーションの構築を、死生観の空洞化という現状の打開に重点を置いて行うことにある。 平成29年度の研究は、第一の課題である文献研究を継続して進めつつ、とりわけ第二の課題である現代社会における死生観形成の意義の哲学的考察を深めることにより、第三の課題に対し、死の主たる現場である医療現場に焦点をあてて実現する可能性を提示した。生の態度の基礎となるような死生観が個々に形成されていない現代社会において、具体的な生と死の対応を担う医療現場は、医学的規範において態度決定を行い、患者はこれに同意するという構造が一般化している。しかしながら、確たる死生観を有する個別の諸事例に注目すると、彼らの態度は医療倫理に反することがある。この事例には、尊厳死や治療拒否といった広義の自殺につながる態度も含まれる。それはすなわち、死生観形成が、医療のような合理的な規範や、外的環境、社会的評価への依存からの脱却した自己実現をもたらしているという可能性を示唆している。この視点に基づいて、自殺予防につながる非規範的コミュニケーションとしての医療現場における死生観形成と自己実現への取り組み可能性を、「医療倫理と臨床の固有性―医療従事者―患者関係の現象学的考察」と題する論文において提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、死と苦悩についての哲学的考察と、現代の死生観形成の現状分析については書籍や論文のかたちで成果を公開し、その問題意識と対策について論じた。一方で、医療現場を超えた、一般的な生活環境における死生観形成のためのコミュニケーションや社会体制については、いまだ実践例を具体化しきれていない。自殺予防の有効な実践については、例えばうつ病予防につながるような、死生観形成のための理論と環境構築が必要であるため、この点での成果公開が今後の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を基礎として、引き続き研究を進めていく。具体的には、死生観形成の意義を一般に理解させるための書籍を刊行することで、自殺を帰結させる死と生に対する依存的無反省な状態から脱するための手引きを示す。さらに社会体制としての自殺予防のためのコミュニティおよびコミュニケーションのありかたを、研究論文および学会発表のかたちで報告する予定である。
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