研究課題/領域番号 |
16K21407
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石部 尚登 日本大学, 理工学部, 助教 (70579127)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ベルギー / ワロン運動 / フランデレン運動 / 民族運動 / 言語運動 / 言語の造成 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の研究計画にしたがい、ベルギーの2つの言語運動において隣国の言語を「自らの言語」として採用した背景と、そうした隣国の言語の採用が後の運動の展開に与えた影響についての2つの課題について研究を行った。 年度の前半は、ベルギーの両言語運動が共通してもつ普遍的な側面と特殊な側面を理解することを目的に、時代・地域を超えた様々な民族運動に関する文献・資料の収集を行い、それらの民族(言語)運動における言語の役割について整理を行った。それにより、時代または地域によっては言語の要求が前面に現れてこない運動も確かに存在するが、その場合でも自らだけが伝統的に有してきた共通の言語の存在は前提とされており、決して運動において言語の存在が無視、または軽視されているわけではないことなどがあらためて確認できた。これらの情報については現在まとめを行っている途中であるが、言語の役割という観点から民族運動を通時的、共時的に総括した研究はないため、この部分についての成果の公表を予定している。 また、先の活動と並行して年度の後半には、2016年8月に1週間、また2017年3月にもブリュッセルを訪問し、王立図書館とリエージュ大学図書館に所蔵されている資料を中心に、ワロン運動関係の資料の収集を集中的に行った。とりわけ1856年に設立され第Ⅱ期のワロン運動において中心的な役割を果たしたワロン言語文学協会刊行の『年報』『報告書』については、先に入手済みのものも含め1920年までの内容についてあらためて検討を行い、言語自体に関しての発言の抽出を行った。なお、収集を行った資料については、内容の検討と同時に、デジタル化および可読文字化の作業を進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、年度の後半よりワロン運動の資料と同時に、フランデレン運動の資料についても調査・収集を開始することを予定していたが、こちらの作業については2年目に行うことにした。一つには、ワロン運動について、資料の収集と検討に従い、これまでの研究では認識していなかった複数の団体の存在が明らかになり計画よりも収集する資料の範囲が拡大したためであり、また一つには、それらの小団体の活動については記録が断片的にしか残されておらず、全体像の把握に想定以上の時間を要したためである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の若干の遅れには、全体として当初の研究計画を半年ずつ遅らせることで対応する。なお、次年度において、とりわけフランデレン運動の資料調査で今年度と同様の遅延が発生した場合は、(1)2つの研究目的の内の「1. 隣国の言語を「自らの言語」として採用した背景を明らかにする」ことに重点的に取り組むことで、または(2)各運動を4つの期間に分けて分析を行うことを計画していたものを、第Ⅱ期の分析を中心とすることで対応する。前者については、研究計画書にも記したように、「言語の選択に関して取られる戦略は時代的な運動環境の制限を受けると同時に、そうした運動環境を構成していく働きもあると予想されるため」、有効な処置であると考える。また、後者についても、今年度の予備的な検討で、第Ⅱ期における言語観がその後の運動にも強く引き継がれていることを確認したため、同様に有効な処置であると考える。
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