口腔では分泌型IgAによる粘膜免疫機構が重要な役割を果たしている。また、唾液中IgA濃度とストレスなど交感神経興奮の関連性が示唆されている。しかし、唾液へのIgA分泌については不明な点が多く、分泌メカニズムや分泌調節の解明が期待されている。 低分子量Gタンパク質Rhoファミリーの1つであるCdc42は、様々な細胞の形態形成、極性形成および細胞骨格系の制御に関わり、細胞内輸送をはじめとした物質輸送にも強く関与すると考えられることから、唾液腺細胞による物質輸送とCdc42の関連性についてラット顎下腺由来培養細胞であるSMIE細胞を用いて検討した。また、唾液腺における自律神経系によるIgA分泌の調節について、ラットから摘出した顎下腺遊離細胞を用いて検討した。 SMIE細胞におけるCdc42過剰発現は、細胞内における多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)発現および細胞膜のpIgR発現に有意な変化をもたらさなかったことから、Cdc42と分泌型IgAの関連性は見いだせなかった。しかし、Cdc42を過剰発現した、もしくはノックダウンしたSMIE細胞において、トランズウェルにおける物質透過量が増減したことからCdc42は唾液腺細胞の傍細胞輸送に関与していることが示唆された。また、ラット顎下腺遊離細胞を用いた実験において、コリン作動薬やα受容体作動薬と比較し、β受容体作動薬が、IgA分泌を促進した。また、β受容体遮断薬がβ受容体作動薬のIgA分泌亢進を抑制したことから、β受容体がIgA分泌の調節に関与することが示唆された。 以上のことから、唾液腺細胞におけるCdc42の機能およびIgA分泌の調節機構の一部について明らかにした。
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