これまでの研究によって、健常者においては、少量の匂いによっても脳内変化が促され、10秒程度の匂いへの暴露であっても、有意な脳内変化が観察されることが明らかとなった。また健常者においては、匂いを暴露した時の質問紙などによる心理評価の感度は比較的低いことを観察し、近赤外光光トポグラフィーシステム(NIRS)が匂いによる心理変化や脳内変化を観察する鋭敏な指標であることが分かった。 これを踏まえて今年度、香り提示すステムの故障を受け、アロマシューター(アロマジョイン社)を用いて実験を実施した。アロマシューターは本来匂いのディスプレイ装置として開発された装置であるが、タブレット等から簡便に制御可能であり、NIRSによる実験では有効であることから採用し、実験を実施した。 これによって主に、アロマセラピスト等の匂いに関わる職業群者に対する香り提示を行い、NIRSによって、脳内活動の変化を解析した。また同時に、対象者に対してストレス反応を軽減するとされるラベンダーの匂いについて暴露を別途行い、前後で唾液中のストレス値が変化するかどうかを検討し、これとNIRS上の脳内活動の変化とに関連があるかどうかを検討した。またこれに合わせて、嗅覚障害の判定キットであるはからめ法によって、嗅覚障害の発達性に差があるかも検討した。 結果として、健常者に比べてアロマセラピスト等の脳内変化は顕著であることが分かった。ただし唾液中のストレスホルモンなどの指標では有意な変化は観察されていなかった。先行報告では一般対象者では鋭敏にストレスホルモンが軽減しうることから、やはり匂いの学習経験が長い場合、匂いに対する反応性は変化することが分かった。
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