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2016 年度 実施状況報告書

戦後70年間における高知県の「犬神」変容に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K21426
研究機関早稲田大学

研究代表者

酒井 貴広  早稲田大学, 文学学術院, 助手 (70757228)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワード憑きもの筋 / 民間信仰 / 相互作用 / 公共人類学 / 文化人類学 / 民俗学 / 地域研究 / 日本近現代史
研究実績の概要

平成28年度においては、(1)現地調査、(2)文献資料の収集と整理、(3)研究成果の口頭発表を概ね研究計画通りに実施した。現地調査としては、2016年9月及び2017年1月の2回にかけて、高知県での聞き取り・文献調査を実施し、多くの一次資料の収集に成功した。この調査で得た文献資料の整理は年度中に完了しており、次年度の分析に用いる準備が整っている。また、これら成果の一部はすでに口頭発表で公表した。
上記調査結果とこれまで申請者が実施してきた研究成果を考え合わせると、高知県においては、生活世界に生きる人々――生活者たち――も主体的に「犬神」に関する知識を発信し、自らが抱く「犬神」観を積極的に変容させてきたと推測できる。ここで、本研究課題の主軸となる「憑きもの筋にまつわる学術研究の発信した言説と地域社会における言説の相互作用」に着目すると、生活者たちによる憑きもの筋研究の利用法は様々であると表現できる。人々が学術研究の成果を用いる際の手法として代表的な例を挙げると、学術研究の成果を生活世界にそのまま敷衍するもの(受容)、学術研究の言説と自分自身の「犬神」に対する解釈を融合させるもの(援用)、学術研究の成果に真っ向から対立するもの(拒絶)などが見出される。しかし同時に、生活者たちの言説には、学術研究の成果に全く触れない例がきわめて少ないことも指摘できる。ゆえに、学術研究の成果は、(生活者たちがそれらの言説を一切知らない場合を除けば、)常に生活者たちから「言及される」関係の下にあると結論付けられる。
平成29年度においては、学術研究の言説と生活世界の言説が相互作用を及ぼす度合いを綿密に分析し、戦後からの約70年間で高知県下の「犬神」が変容するに至った歴史的過程を描出する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画で挙げた、(1)高知県での2回の現地調査、(2)高知県内外での年度を通じた文献資料収集、(3)インターネット上の言説の収集、(4)大学院生を雇用しての文献資料の分類と整理、(5)研究成果の発信の5点を、概ね計画通りに実施することができた。
また、これらの活動を通じて、憑きもの筋に関する学術研究の言説と生活世界における「犬神」批判の言説の両者が強く結び付いており、時にはそこにフィクションの犬神にまつわる言説が絡み合い、三者の間で特有の相互作用が生じてきたという重要な知見を得るに至った。
加えて、平成29年度の現地調査に向けた予備調査、予算の消費状況も順調に進展しており、次年度の研究も当初の計画通りに遂行できるものと期待される。

今後の研究の推進方策

平成29年度は、平成28年度に整理した文献資料の内容分析を完了させ、聞き取りデータと併せた総合的な分析の材料とする。同時に、平成29年8月から9月にかけて、高知県における最後の現地調査を実施する。平成28年度の調査は、予め「犬神」について知っている高齢者への聞き取りが主軸となったが、平成29年度においては、現時点で高知県の「犬神」にまつわる知識を有していない若年層への調査を実施し、各世代における高知県下の「犬神」観の特徴(共通点と差異)を明らかにする。
これらの研究成果は、口頭発表・投稿論文などの形式で随時発表するとともに、より一般的な表現を用いたワークショップにおける公開を目指す。ワークショップ開催の目的は、現代社会における民間信仰の意味や、学術研究と生活世界の間に生じる相互作用、インターネットに代表されるサイバー空間が人々に及ぼす影響について広く公開し、本研究課題の成果を公益に資するためである。以上。

次年度使用額が生じた理由

本助成金において74,802円の次年度使用額が生じた理由は、大項目「その他」における支出が予想を下回ったためである。申請者は研究計画において、フィールドワークが十全に実施できない研究不調が生じる可能性を考慮し、そうした不測の事態においては、電話による追加の聞き取り調査(中項目「通信運搬費」発生)や、文献資料の追加収集(中項目「印刷製本費」発生)を実施して、調査における不足を補うとした。
2016年度の研究では、調査が概ね順調に進展したこともあり、申請した「その他」項目の資金使用は著しく少なかった。その結果、上記74,802円の次年度使用額が生じたとまとめられる。

次年度使用額の使用計画

本次年度使用額は不測の事態に対応するため確保している資金であり、2017年度中の調査に遅れが生じることを考慮し、引き続き「通信運搬費」と「印刷製本費」として使用する。
当然のことながら、2017年度の調査が順調に進展し資金を消費する必要が生じなかった場合には、残額を全て返納する所存である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 地域住民とメディアの相互作用を基盤とする祭りの創造に関する研究―栃木市都賀町家中の「強卵式」を事例として2017

    • 著者名/発表者名
      酒井貴広
    • 雑誌名

      早稲田大学大学院文学研究科紀要

      巻: 62 ページ: pp549-566

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 書評『高知市史編さん委員会民俗部会編『地方都市の暮らしとしあわせ――高知市史 民俗編』』2017

    • 著者名/発表者名
      酒井貴広
    • 雑誌名

      文化人類学

      巻: 81-4 ページ: pp736-739

    • 査読あり
  • [学会発表] 戦後高知県における「犬神」の変容に関する研究―学術研究の文献資料を通じた社会への還元に注目して2016

    • 著者名/発表者名
      酒井貴広
    • 学会等名
      日本文化人類学会第50回研究大会
    • 発表場所
      南山大学(愛知県名古屋市)
    • 年月日
      2016-05-29

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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