研究課題/領域番号 |
16K21429
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
武田 和久 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (30631626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スペイン / 軍事組織 / ラプラタ地域 / イエズス会 / グアラニ先住民 |
研究実績の概要 |
本研究は中世から近世にかけてのスペインで誕生・発展した軍事技術や戦術が、アメリカ大陸のスペイン植民地化の過程で土着の先住民たちにどのように受容され、特に彼らの軍事文化がどのように変容したのか、一次史料をもとに詳細かつ具体的に解明するものである。 本年度の研究を通じて、同時期のスペイン軍の基本的な陣形テルシオ(tercio)が、同国統治下の南米ラプラタ地域においては、イエズス会宣教師が建設、運営した先住民改宗施設(レドゥクシオン[reduccion])で暮らしていたグアラニ語系先住民に伝授され、実戦でも使われていた事実が明らかになった。 テルシオを組むには数学に基づく緻密な計算と、一糸乱れぬ隊列を維持するために規律や克己心といったものが兵士一人一人に要求された。テルシオの陣形としては具体的には三角形、四角形、五角形、六角形、八角形、楕円形、ひし型、十字架型など様々あったが、この中に半月の陣形というものがあり、これは当時スペイン語で書かれ同国の内外で出版された各種の軍事教練書でも紹介され、平方根といった数学の計算式と合わせて言及されていた。そしてこの半月の陣形なるものがグアラニ先住民にもイエズス会士によって教えられ、かつ実践されていた事実が明らかになった。 こうしたことは、2016年12月にチリのサンティアゴ・デ・チレ大学発行の学術雑誌『社会史および精神史雑誌』(Revista de Historia Social y de las Mentalidades,)に掲載されたスペイン語論文にまとめた(2016年12月発行)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」でも述べたとおり、本研究の成果としてスペイン語論文が2016年12月に公にされた。同論文は2名の匿名の査読者による審査を経て掲載に至ったが、いずれの査読者からも「軽微な修正を経て掲載可」という、三段階評価の中で最も高い評価を受けたことは、研究代表者にとってこのうえない喜びとなった。そして同論文を親交のある欧米ならびに中南米諸国の研究者たちに送ったところ、数名から高い評価を受け、「このテーマについて論文で言及する際はぜひ引用したい」というコメントも得ることができた。 また本研究テーマに関連して、17世紀前半から中葉にかけてのイエズス会布教区において銃器をはじめとする武器一般がどのように確保されていたのか、供与、購入、製造という三つの観点から一次史料をもとに論じた論文を脱稿し、現在査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、個々の布教区内に設けられた先住民軍事組織と宗教組織の関連に焦点を当てて研究を進めていく。後者の宗教組織は信心会と呼ばれ、中世ヨーロッパにその起源を有する。一般に信心会の会員は信仰心が厚く、貧者や病人の世話を行う慈善事業の精神あふれる者とされてきた。しかし中世ヨーロッパ史に関する先行研究の中には、信心会の会員が、福音活動の一環として軍事的な事柄に携わったり、実戦において異教徒や反乱者と戦うといった事実を論じたものがあることがわかってきた。本研究のイエズス会布教区との関連で言えば、布教区内の信心会の会員であるグアラニ先住民が率先して遠征に出かけ、まだキリスト教徒となっていない先住民に攻撃を仕掛けたり、捕虜として布教区に連れ帰っていたことを語る史料が存在することがわかってきた。こうした先行研究や史料をもとに、軍事と宗教にかかわる研究を行っていく。
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