研究課題/領域番号 |
16K21429
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
武田 和久 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (30631626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スペイン / 軍事組織 / ラプラタ地域 / イエズス会 / グアラニ先住民 |
研究実績の概要 |
本年度は、スペイン植民地時代の南米ラプラタ地域(現在のパラグアイ南東部、アルゼンチン北東部、ブラジル南部、ウルグアイにまたがる領域)において、イエズス会士が1609-1767年にかけて同地の先住民グアラニのキリスト教化のために設立・運営した総数30の布教区(スペイン語ではレドゥクシオンもしくはミシオンと呼ばれる)で進行していた銃器配備の実態について、主にスペイン語史料の読解に取り組んだ。ラプラタ地域のイエズス会布教区は、ポルトガル領ブラジルに隣接するという地政学的な条件もあり、1620-1630年代にかけてポルトガル人が率いる先住民奴隷狩り部隊バンデイランテの頻繁な襲撃に見舞われた。こうした状況で同地域のイエズス会士たちが採ったのが、武力を基にした自衛であったことが明らかになった。こうした調査の具体的な成果は、後述の「現在までの進捗状況」で詳しく述べる。 このように研究を進めたのと並行して、2017年12月、岡山大学で研究発表を行った。南米ラプラタ地域で軍事に関与するイエズス会士たちはそもそもいかなる組織原理の下で会員として自己同定し、活動していたのか。一般にイエズス会とは近代的な修道会として特異な存在とみなされがちだが、その特異性は、通時的かつ共時的な観点から比較した場合、どのように見えてくるのか、「イエズス会の近代性」がいかなるものであったのかを再検討しようという提言を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果としては、査読審査を経て刊行された論文「17-18世紀スペイン領南米ラプラタ地域のイエズス会布教区における銃器配備」が挙げられるが、このことが、本研究を「おおむね順調に進展している」と区分した理由である。 本稿ではまず、バンデイランテによるイエズス会布教区への頻繁な襲撃に対して、イエズス会士たちが武力で応戦することで一致した経緯を論じた。次に、ヨーロッパのイエズス会上層部がラプラタ地域の同僚たちの決定をどのように捉えていたのか、また上層部の決定に対して採った同地域のイエズス会士たちの行動を論じた。そして最後に、上層部の意思に反するかたちで、ラプラタ地域のイエズス会士たちが、先住民グアラニに対する軍事訓練や布教区の防備に加えて、様々な方策を通じて火器をはじめとする軍事物資を確保し、布教区の防衛力を高めたことを論じた。 イエズス会士たちが採った軍事物資確保のための具体的な方策の解明にあたり、本稿では種々の史料を比較検討しながら全体像を復元した。この作業を経て明らかになったのは、(1)スペイン人総督から布教区に数年にわたり一定数の銃器が渡されたこと(供与)、(2)イエズス会士たちも自己資金を使って銃器を買っていたこと(購入)、(3)そして幾つかの布教区には炉が設けられ、イエズス会士や外部のスペイン人専門家の指導を受けたグアラニが火器を作っていたことなどである(製造)。こうした多様な方策により布教区において軍事物資が確保されていたことには、ラプラタ地域のイエズス会士たちの組織的な関与が認められる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の大きな特質として挙げられるのが、キリスト教宣教師であるイエズス会士がスペイン領南米ラプラタ地域において、武器の製造や備蓄、その使用方法の教授といった事柄に積極的に関与していた事実の探求である。今日、宗教関係者の発言や態度には平和的なメッセージが色濃く反映され、ともすれば、宗教と言えば平和という固定観念が形成されている節がある。しかし、2016-2017年度と本研究を進め、挙がってきた成果を踏まえれば、こうした見方は修正せざるを得ない。 かと言って、イエズス会士をはじめとするキリスト教宣教師が常に暴力に加担していたわけでもない。実際に貧者や社会的弱者に対する献身的な支援を彼らが継続してきたことも、まぎれもない歴史的な事実である。慎重に検討しなければならないのは、いかなる歴史的な文脈において、宗教が暴力と結びついたり、離反してきたかであろう。 本研究の最終年度である2018年度は、こうした宗教と暴力の複雑な関係を念頭におきながら、さらに研究を深めていく。
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