研究課題
本年度は、17-18世紀のスペイン領南米ラプラタ地域のイエズス会布教区で展開されたグアラニ先住民に対する定期的な軍事訓練を始めとするヨーロッパ・キリスト教文化に根ざした制度や価値観が、スペイン植民地体制への先住民の「平和的な統合」のための手段としてイエズス会士たちによって活用されていたことを解明した。「平和」という言葉の意味合いは歴史的に見れば今日の一般的な理解とは大きく異なる。例えば中世ヨーロッパにおいては「神の平和」という運動が展開されたが、この運動には、無秩序に繰り広げられる暴力の抑制という側面のみならず、「キリスト教的な観点からの平和」の構築という目標が掲げられていた。つまりキリスト教徒にとっての平和とは、イエスの教えが広域に広がり定着した状態を指し、そのような状態の実現のためには、時として強引なやり方も許容されるということである。イエズス会布教区で実践されていた生活の仕組みやスタイルに着目して研究を進めた結果、「規律の強化」という特徴が著しかったことが明らかになった。先住民にはヨーロッパ人が理想とする時間通りの規則正しい生活、一糸乱れぬ集団作業や祈りの実践、暦に基づく各種宗教儀礼の開催など、「規律」なくしては達成が困難な生活がグアラニ先住民には課せられていた。努力や忍耐によってこれに慣れ親しんだ者は「理想的なキリスト教徒」として誉れの対象となり、適応できなかった者は「不適格者」という烙印を押されて差別の対象となった。イエズス会布教区における「平和的な統合」の実態とはこのようなものであり、先住民を対象とした定期的な軍事訓練や幾多の実戦もこうした統合の実現に少なくない影響を与えたと考えられる。
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Isabella Lazzarini (ed.), A Cultural History of Peace, (Volume 3: A Cultural History of Peace in the Renaissance 1450-1650), London: Bloomsbury Publishing.
巻: 3 ページ: 印刷中