研究課題/領域番号 |
16K21431
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
稲見 崇孝 早稲田大学, スポーツ科学学術院, その他(招聘研究員) (10750086)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレッチング / マッサージ / 硬さ |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒト骨格筋の材質特性である”硬さ”を非侵襲的かつ定量的に評価できる超音波エラストグラフィ法を使用し、どのような手技をどのような強度でどれくらいの時間実施することが最も筋の材質を変化させ得るかを明確にすることを目的としている。本研究をスポーツ競技や臨床現場に応用させるための基礎的研究と位置づけているのも特徴のひとつである。今年度は、ストレッチングや温熱療法、鍼灸、マッサージなどの筋の材質を低減するとされるいくつかの手技の効果を検討すべく、網羅的な文献渉猟から各手技のゴールドスタンダードとされる強度と時間を明確化し、その結果を総説論文として発表した。これらの結果をふまえ、筋の材質を低減させる可能性が高いストレッチングとマッサージ効果に関する実験を優先した。強度や時間の要素を加えた予備的実験および本実験を実施し、現段階では粗解析の段階ではあるが各手技の時間依存的な変化についても明らかとなった。両手技において対象としたのは、申請者や諸家が採用している下腿三頭筋である。下腿三頭筋は、下肢を代表する筋であるとともに可塑性や適応性に富み、人間が生活していく上で重要な筋であることが理由であった。またストレッチングにも様々な手技があるが、安全性が高く、多くの現場で用いられる手技であること、さらに今回想定している手技の中で最も高い効果が期待できることからスタティックストレッチングを選択した。マッサージの効果検証では、30年以上の臨床経験を持つ理学療法士から軽擦法や強擦法、揉捏法によるマッサージを実施し、実施後の材質変化に関する結果が得られた。なお、温熱療法および鍼灸の効果に関しては、計画申請時から知見がアップデートされていないため実験の実施を見送っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、諸家によって報告・確立された方法論を採用・統一することで、材質特性、すなわち”硬さ”を研究する領域において古くからの課題とされてきた”異なる方法論・異なる機器で計測された結果の不一致”という問題を排除している。また、筋の材質を変更させ得る種々の方法において、内外の報告にて高いエビデンスが得られ、なおかつ方法論が明確化されているものに的を絞っている。したがって、方法論を検討する工程ではなく、断片的に検討されてきた知見を統合することに時間を配分することができた。さらに、社会やスポーツ競技、臨床現場に還元されやすい研究デザインを常に念頭に置くことで複雑化する要因をシンプル化できた。材質を変化させる手技を渉猟する過程において、ストレッチングとマッサージに関する知見を集約することができた反面、温熱療法と鍼灸については課題が残存する結果となった。本研究課題申請時から知見がアップデートされていない点に加え、特に鍼灸については侵襲性を考慮する必要がある。高いエビデンスレベルを有する方法論を採用することを前提としているが、現在は健常者を対象としていることもあり、両手技の実施には一時的に筋を損傷させ材質を硬化させるモデル(遅発性筋痛)を用いた研究デザインの可能性を引き続き模索しなければならない。そのため、当該分野で世界をリードする海外研究機関と本実験課題への応用を見据えた共同研究を実施し、超音波エラストグラフィを用いた筋損傷後の材質変化に関する実験を終了している。これらの理由により全体的には計画通り進行できている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、現時点においてデータ収集が終了しているストレッチングおよびマッサージに関する詳細解析を最優先とする。時間依存的な変化を解析するための画像を含めた膨大な材質データが得られているため、それらをこれまでに蓄積された方法論にて高精度に解析する。同時に温熱療法および鍼灸の最新知見に関する情報収集を継続し、両手技実施の可否を科学的に判定する。得られたデータを詳細解析することにより、同一手法にて評価された各手技の即時的な効果量を比較・検討し、本研究の目的である、「どのような手技をどのような強度でどれくらいの時間実施することが最も筋の材質を変化させ得るか」を明確にする。効果量に差が認められない場合には、ストレッチングおよびマッサージの実験において取得している両手技の時間依存的な変化を指標として加え、即時効果とは異なる材質特性の反応についても検討を加えることで明示したパラダイムを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
得られた知見を順序立てて整理し、年度内下半期の学会にて発表する計画を予定していた。実験結果を精査した結果、次年度上半期に開催される国際学会での発表の方が知見に沿う内容であることから発表先を変更した。そのため、学会発表のために支出する費用(旅費等)が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由から学会発表先を次年度上半期に開催される国際学会に変更したため、学会発表のために支出する費用(旅費等)として使用する予定である。次年度上半期に発表予定の国際学会にはエントリーを済ませており、採択の連絡を受けている。
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