本研究の目的は、明治・大正期の子ども向け出版物に掲載された童話・例話のエートス的、イデオロギー的意図を分析し、加えて、周辺の知識人等の言説を照らし合わせながら、そこに現れた〈良い子〉像のイメージ・概念を明らかにすることであった。そして、学校教育と家庭教育の各立場及び両者の相互的影響関係を視野に入れて考察を行う計画であった。 2022年度は、引き続き明治期初期から中期の知識人が書いた文献に着目して収集を行った。本研究と関連性のありそうな資料を探し出し、研究対象となりそうな資料か中身を確認した。次に、関連する先行研究の調査も再度行った。 特に、2022年度は、福沢諭吉をキーパーソンとして焦点を絞り、福沢の道徳観を中心に分析を進めた。福沢諭吉は、子どもの教育や家庭教育に関して興味を持ち続けた人物で、明治23年の教育勅語に対する意見、国定修身教科書に対する意見を表明している。福沢が、近代の〈文明国〉における〈子ども〉をどのようにとらえていたのかを明らかにすること、他の知識人たちとどのような議論を展開しているかを明らかにすることは、当時の子ども観を理解する上で意義がある。福沢の『文明論之概略』(1875/明治8年)を起点に、『ひゞのをしへ』(明治4/1871年)、『童蒙おしえ草』(明治5/1872年)、『家庭叢談』(明治9/1876年)、『福翁自伝』(1899/明治32年)を一次資料に、〈子ども〉観にかかわる言説を抽出し、分析している。その他、国定教科書にまつわる諸問題に関する論考も一次資料に加えた。ただし、資料収集と分析作業に予想以上に時間がかかっているため、予定よりも作業が遅れている。今後、研究結果を学会発表および論文投稿によって公開できるよう準備を進める。
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