研究課題/領域番号 |
16K21448
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研究機関 | 国際大学 |
研究代表者 |
伊藤 晴祥 国際大学, 国際経営学研究科, 准教授(移行) (30710678)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コーポレートガバナンス / マネジメントバイアウト / コーポレートファイナンス / アンダーバリュエーション |
研究実績の概要 |
本年度は継続して日本におけるMBOを事例として、ガバナンス構造、産業構造、あるいは、マクロ経済状況が与える企業価値への影響についての研究を進めた。従前の研究により、日本企業がMBOを行う際には、アメリカ企業がMBOを行う際と遜色のないプレミアム(平均で2か月前の株価に対して49%)を支払っていることが理解された。また、この高額のプレミアムを支払ってまでMBOを行っても、アメリカとは異なりキャッシュフローは改善していないことが理解された。さらに、アメリカ企業では、MBO後に経営者に対して株式の集中がみられるが、日本企業の場合には、MBO以前から経営者の株式割合が高くなっており、エージェンシー問題があまり見られない。また、MBO企業に限った分析においても、経営者による株式所有割合と、キャッシュフローの改善割合や、企業価値、プレミアムなどとの相関がみられなかった。以上のような状況にもかかわらず、MBO後の平均リターンは、54.6%と非常に高くなっている。 このため、高額のプレミアムを支払ってMBOを行っている理由は、エージェンシー問題の解決ではなく、アンダーバリュエーション(割安な株式の購入)であると考えられる。当該年度はアンダーバリュエーションが理由であることをさらに確認をするために、産業要因とマクロ経済要因とにアンダーバリュエーションを分解して分析を行い、どのようなアンダーバリュエーションがMBOの誘因となっているか研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
継続して行っているMBOに関する研究を学術論文として出版することを考えているが、過去に2度不採択となっており、もう一度チャレンジするべく、ストーリーの練り直しと、新しいデータを整えて分析を行っている。データの整理に思った以上に時間がかかってしまったたことが遅れの主たる原因である。新しい分析と論文の執筆を行い、ファイナンス分野において4番目によいジャーナルである、Journal of Financial and Quantitative Analysisに提出をする予定である。その後、今年度は新しいコーポレートガバナンスに関する研究にも取り掛かりたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、アンダーバリュエーションの要因分析のためのデータセットの整理が完了したため、回帰分析を行い、アンダーバリュエーションによって行われたMBOは、産業ごとに異なるか、経済状況毎に異なるか、あるいは、個別要因に起因するところが多いかについて分析を行う。この分析結果を利用して、アンダーバリュエーション仮説を検証し、Journal of Financial and Quantitative Analysisに提出をしたい。 その後、新しいガバナンス研究に従事したいと考えている。特に、近年では持続的な開発課題(SDGs)や、Environment, Social, and Governance (ESG)投資への関心が高く、コーポレートガバナンスコードの精査のみならず、どのようなガバナンス構造が投資家に評価されるか、キャッシュフローの増加あるいはリスク低減に伴う企業価値の増大をもたらしているか、検証をしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
MBOに関する経過が遅く、すでにあるデータセットを利用して分析を継続したため、新しいデータセットの購入を依然として行っておらず、大きな出費がなかったためである。 今年度の使用計画については、MBOに関する研究が完了次第、コーポレートガバナンスに関する実証研究に進みたいと考えており、最新の企業の株価データ、財務データ、ガバナンスに関するデータを購入予定である。また、統合レポートに記載の、企業の社会的責任(CSR)や、持続的発展課題(SDGs)に関する量的及び質的データの整理を検討している。研究成果が整った際には、海外での学会発表も予定している。
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