企業価値向上に寄与するガバナンス構造に関する実証研究と題して研究を行った。具体的には、マネジメントバイアウト(MBO)の事例を利用し、MBOによって、企業価値増加に対してどのような効果があったかについて分析を行った。日本における分析の結果、アメリカと同様に、MBO実施企業はMBO以前に簿価時価比率(Book to Market Ratio)が、高く割安になっており、MBO以後に簿価時価比率が改善しており株主価値を創造していることが理解できた。その理由について、①エージェンシー仮説、②アンダープライシング仮説、③従業員からの富の移転仮説のいずれに基づくものかについて検証を行ったところ、アメリカの事例では、エージェンシー理論が支持されるが、日本のデータを利用した分析では、インセンティブの改善に伴い、キャッシュフローなどの改善が伴っていないこと等から、エージェンシー仮説は支持されず、アンダープライシング仮説が支持された。 このアンダープライシング仮説をさらに精査するために、アンダープライシングを3要素、産業要因、時系列要因、個別要因に分解したところ、個別要因によるアンダープライシングが日本でのMBOの誘因となっていることが理解できた。 さらに、アンダープライシングを理由としてMBOを実施しているかどうか、MBO実施企業がMBOに関するお知らせ等において、表明している理由において、企業価値が低いこと、すなわち割安であることを理由として明確にしている事例は殆どなかったが、長期的な企業価値向上、リストラクチャーの必要性、景気の低迷、上場コストの高さを理由として挙げている場合が多く、現状の企業価値について問題意識を持っている経営者が多いことが示唆される。当該データセットの整備ができたため、さらなる企業価値向上に寄与するガバナンス構造における知見を得るための研究を今後も継続する予定である。
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