本研究は、グローバルに展開するチベットの宗教文化を主な対象に、宗教を実践する人びとの間に形成される共同性を「縁」概念に着目して解明することを目的としている。2022年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響によって、当初予定していた現地調査の実施はできなかったものの、これまでの調査で収集した資料の分析とまとめ、公刊に向けた作業を集中して実施した。それを踏まえて、宗教的共同性に関する人類学的議論をとりまとめ、国際学会・シンポジウムで発表した。 研究期間全体を通じ、本研究は文献調査と現地調査の両側面から、チベットにおける「縁」概念をめぐる考察を進めてきた。文献調査においては、チベットの高僧の伝記や儀礼に関わる現地語文献の精読を通じて、その中で用いられる「縁」や「因縁」「業」といった表現の用例を整理し、チベットにおいて「偶然の出来事」や「人生の転機」がどのように解釈されるのか、そこに「縁」はどのような位置づけを占めるのかについて明らかにした。 また、現地調査においては、中国四川省とインド・ヒマーチャルプラデーシュ州のボン教僧院において大規模な儀礼の参与観察を実施し、そこで出会いやつながりがどのように生じ、また語られるのかについて事例を収集した。 以上の事例をとりまとめる中で、共同性に関する研究文献を哲学、宗教学など関連分野にも広げながら収集し、縁を仏教的な文脈にとどまらない形でコミュニティ論と接続するための考察を進めた。 本研究の成果の最終的なとりまとめとして、これまで発表した論文に現地調査から得られた新たな知見を盛り込み、英文単著としての公刊準備を進めている。
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