研究期間を1年間延長して迎えた研究最終年度(令和元年度)は、昨年度遂行することのできなかった課題4:昭和戦前期における女子水泳の組織化の全体像の検証および研究成果物の作成に注力した。全体像の検証については、本研究課題の成果に研究代表者の従来の成果を加え、日本水上競技連盟(水泳連盟)、日本女子水上競技連盟(女子水連)、東京基督教女子青年会(東京YWCA)、高等女学校を含む複数の組織の関係性に焦点をあてた。本年度の研究成果として、女子水泳の組織化の全体像を以下の通りまとめることができる。 日本において女子水泳が組織化を進める時期には、水泳連盟、女子水連、高等女学校、東京YWCAという複数の組織が、競技力の向上、普及、教育、保健衛生等、それぞれの目的のもとに別個に活動を展開していた。しかし、1932年前後には水泳連盟と各組織が連携する動きがみられるようになる。その要因として、水泳連盟が1932年の組織改編によって掲げた「水泳、水上競技の全国普及運動」を遂行するには、これら複数の組織と連携を図りながら普及促進のための組織体制を整える必要があったと考えられる。さらに、女子水泳の普及を目的に設立された女子水連は、日本女子スポーツ連盟とは異なり元選手である女性のみで運営するという特徴を備えており、1931年以降に設置された水泳連盟の女子部委員会にも多くの女性たちが登用されていた。このことからも、女子水泳は同時期の陸上競技とは異なる発展の道筋を歩んだ可能性がある。最終年度の検証により、これまで女子陸上競技に代表されていた昭和戦前期にみる女性スポーツの普及・発展の全体像に、女子水泳を加えることができた。 最終年度は、研究成果広報用冊子の作成も進めていたが、新型コロナウイルス感染症の影響により執筆者および印刷会社の作業に遅延が生じてしまった。現在、作業が再開し、編集・印刷作業を進めている。
|