本研究は、思想家ベネデット・クローチェの歴史哲学を代表する「全ての真の歴史は現代史である」という命題について、その成立過程を明らかにしようとするものである。この目的を達成するために、4つの個別課題(1.クローチェの文学史家としての活動のまとめ、2.クローチェの歴史哲学の通時的分析、3.1909年から1917年にかけてのクローチェの読書体験の検証、4.『歴史叙述の理論と歴史』の異なるエディションの比較研究)を立て、研究を開始した。 そのうち第1の課題は、平成29年度までに終え、その成果をまとめた論文を平成30年3月に発表している。一方、課題2および課題3については、1910年前後にクローチェが取り組んだヴィーコ研究の問題(課題5とする)が新たに浮上し、ヴィーコの『新しい学』および彼の歴史主義のあり方についてまず取り組むこととした。そこで、ヴィーコに関連する思想家(ダンテ、ヘーゲル、マキャヴェッリなど)の研究者と共にヴィーコの『新しい学』読書会を主催し、現在に至るまで当該作品の精読を行っている。クローチェの歴史哲学の変遷とヴィーコの関係について、今年度内に要点をまとめ成果報告を行う予定である。 平成30年度に取り組む予定であった課題4はいまだ着手できていない。上述のように、新たな課題(課題5)が浮上し、そちらを優先させたためである。予定を大幅に遅れてしまったが、課題5を解決した後、今年度後半には課題4に着手したい。 なお、平成30年10月に刊行されたFrancesco Postorino氏編集の"L'altro Croce"には、拙文("Croce e il Giappone")が収録されており、そこで以上の研究の成果の一部を公表している。
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