6 量体 ATP 分解酵素は生体内で様々な反応を担う重要な蛋白質である。6量体で形成されるリングが ATP 加水分解に伴い構造変化を起こすことで、基質の認識や切断を行う。その6 量体の構造変化と基質との反応の共役機構は、いまだ不明な点が多い。本研究では、低温電子顕微鏡による構造解析や1分子観察を用いて、その機構を明らかにすることを目的とした。 低温電子顕微鏡による単粒子解析では、薄氷に包埋された蛋白質を撮影し、その像から3次元構造を計算する。単粒子解析により、6 量体 ATP 分解酵素の1種であるV-ATPaseの状態の異なる3つ構造を明らかにした。V-ATPase は回転分子モーターとしても知られており、この結果から、その回転機構の一部を明らかになった。また、より小さい分子である V1-ATPase の単粒子解析も行った。電子顕微鏡像を撮影する際に、蛋白質分子の向きに偏りがあり、高分解能の構造解析が困難であった。しかし、観察用基盤の修飾とサンプルの調製法の工夫をすることで、向きの偏りが一部解消され、最終的に分解能 5.8 オングストロームの構造が得られた。今後、さらに分解能を向上させ、反応機構を明らかにしていく。 6 量体 ATPase が基質を認識するためには、厳密な相互作用が必要と考えられていた。どのような相互作用が必要かを調べるために、人工的な基質を設計し、その相互作用を観察した。その結果、両者の相互作用は厳密である必要はなく、大雑把なものだということが強く示唆された。
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