昨年度に引き続き,高等真核生物の小胞体膜からミトコンドリア外膜へのホスファチジルセリン(PS)輸送能が指摘されているVAT-1についてPS輸送の分子メカニズムを明らかにするため,VAT-1の構造機能解析を行っている.大腸菌の系を用いて調製したヒト由来VAT-1を用いて,リポソーム間のリン脂質輸送活性を質量分析を利用して解析したところ,VAT-1にはPSだけではなくホスファチジン酸およびホスファチジルグリセロールにも輸送能があることが明らかになり,VAT-1は酸性リン脂質特異的に輸送することが示唆された.2.2 オングストローム分解能で決定したVAT-1の結晶構造は,出芽酵母のNADPH:キノン酸化還元酵素Zta1とよく似ていた.Zta1の構造中にはNADPHが結合する溝が存在し,同様の溝はVAT-1にも見いだされたが,溝を構成するアミノ酸残基はZta1とは異なり,実際にNADPHとの結合は見られなかった.VAT-1の溝を構成するアミノ酸残基の変異体を用いたPS輸送アッセイからVAT-1の溝はリン脂質輸送に重要であることが示され,この溝にリン脂質が結合する可能性が示唆された.VAT-1の結晶構造には塩基性残基と疎水性残基から構成されたループ構造が分子表面から突出している.このループ領域の変異体についてリン脂質輸送活性が低下していた.さらに,ループ領域の変異によりリポソームとの結合は見られなくなったことから露出したループ領域はリン脂質輸送活性および膜結合能に重要であることが明らかになった.Trpの蛍光強度変化の測定により,突出したループ中の二つのTrp残基は側鎖が膜に刺さるように相互作用することが示唆された.VAT-1の構造機能解析により,リン脂質輸送における膜との結合様式およびリン脂質の認識メカニズムが示唆された.現在投稿論文として準備中である.
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