難治性疼痛は治療に難渋する慢性疼痛であり、ストレス要因と連動して脳内神経回路のひずみや可塑的変化を引き起こすことが原因とされる。慢性疼痛患者の脳機能に関する研究において、脳波周波数帯域に健常者とは異なる特性があることが報告されており、難治性疼痛には脳機能状態を変容させるような治療が有用であると考えられる。本研究では、難治性疼痛患者の脳波周波数パターンの解明および聴覚刺激をフィードバック情報とするニューロフィードバックトレーニング実施による難治性疼痛への効果検証を目的とする。当該研究の実施は、難治性疼痛患者に対する効果的なニューロフィードバックトレーニングを確立し、ニューロリハビリテーションにおける新たな感覚障害改善プログラム創出のための基礎研究である。 最終年度である平成29年度は、前年度に実施した予備研究を基に聴覚ニューロフィードバックトレーニングの効果をシングルケースデザインにより検討した。研究はABA法を用い、各期は3週間とした。B期では週3回、5分間のニューロフィードバックトレーニングを実施した。用いるターゲット周波数はα波帯域とし、そのパワー値がA1期の平均値に2倍の標準偏差を加えた値を上回った際に聴覚フィードバックを与えた。 その結果、A1期前/A1期後/B期後/A2期後で疼痛の強さの程度(NRS)に変化はなかった。しかし、疼痛の破局的思考(PCS)および身体知覚異常スケール(BPDS)はそれぞれ改善した。これらのことから、頸髄損傷後疼痛に対する聴覚ニューロフィードバックトレーニングは、痛みの破局的思考および身体知覚異常の改善に有効である可能性が示唆された。 本研究結果は、聴覚刺激を用いたニューロフィードバックトレーニングの実施は脳波周波数をコントロールすることができ、痛みの思考および身体知覚異常などの慢性疼痛症状に対するペインマネジメントの一助になると考える。
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