研究実績の概要 |
研究最終年度には、V-ni V構文 (Miyagawa 1987, Matsumoto 1996) 等の複雑述語における再構築現象(Miyagawa 1987)をミニマリストプログラムの枠組みで捉え直し、日本語では付加詞の「に」句から抜き出しが可能であることから、付加詞からの抜き出しに関して日英語の間に差が見られることを確認した。その上で、日英語の差は付加詞併合の際のラベル付与に起因するという結論に至った。また、Sugimura & Miyamoto(2015) の考察をベースに、省略現象を考察することにより、付加詞併合の際のラベル付与は基本的には随意的である(Hornstein 2009)ことを確認した。 研究期間全体の成果としては、「に」句が項・付加詞両方の振る舞いをするという性質を「置き換え」「移動」「抜き出し」の考察を通して明らかにし、その理由として「に」句は統語的には動詞の項の位置に現れるが、選択(selection)を伴わない付加詞であるという結論を導いた。 また、既述の「抜き出し」に見られる日英語の差に関しては、英語の付加詞併合にはtwo-peaked構造 (Epstein, Kitahara & Seely 2012) の生成が避けられない(Oseki 2015)ため、ラベル付与が不可能であるのに対し、日本語では、「に」句併合の際に形態素「に」がSaito (2014, 2016) の反ラベル素性を持つことにより、ラベル付与を可能とし、それによって「ラベル付与」の可否と「抜き出し」の可否が連動するという結論を導いた。本研究の成果は、従って、Chomsky (2013) 以来、1つの課題となっている付加詞のラベル付与メカニズムに新たな洞察を与えたと言える。 なお、本研究課題は宮本陽一氏(大阪大学大学院言語文化研究科教授)の協力のもと遂行している。
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