本研究の目的は、優れた顧客経験を創造する組織能力がいかに構築されるのかを明らかにすることである。最終年度である2018年度は、2つの視点から総括的な研究を行った。 第一に、2017年度の延長で、意思決定権限の配分という先行研究にはない視点を適用することで、顧客経験創出の前提となるタッチポイントのデザインについて、組織内の異なる主体の共同努力に焦点を当てた。先行研究と自動車ディーラーの本社と店舗を対象とするケーススタディより、いかに知識に応じて意思決定権限が配分されるべきかに関するフレームワークを構築した。これは台湾国立成功大学の許經明氏との共同研究によるもので、5回の学会発表に結実した(うち一つについては学会賞を受賞)。 第二に、顧客経験の創出を「サービス・ドミナント・ロジック」における「価値共創」の観点からとらえ、理論的・実証的な検討を行なった。具体的には、顧客による多様な資源の統合を導く営業を「価値共創型営業」として概念化し、自動車ディーラーの13年に及ぶ変革のケーススタディから、その具現化のためには、社会的アイデンティティの問題を克服しながら、営業現場のみならず組織全体が変わる必要があることを明らかにした。この成果はビジネス誌に掲載され、反響を呼ぶ結果となった。 以上の通り、本研究は、国際共同研究への発展もあり、当初の研究計画にはなかった視点を柔軟に取り込んでいった。結果として、顧客経験を創出する組織の問題に関して斬新な理解を得ることができた。マーケティング分野における先行研究を補完するという所期の狙いを十分達成したといえる。
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